夢現の世界
「今ならまだ引き返せる。一時的にその夢を見されないようにしてあるからね。君はいわば疑似餌に引っかかる寸前の魚だ。今なら間に合う。このままだと夢に“食われる”ぞ。」
僕はますます混乱してきた。アイツら?疑似餌?夢に“食われる”?わけがわからない。
「今あまりしゃべっても信じてくれないだろう。ちょっと荒療治だけれど、今日、君は例の夢を見られるようにしよう。でもやってはいけないことがひとつある。“絶対に”質問に答えるな。そうすれば君は安全だ。」
ワケがわからなかった。でもキョウジの言っていた事が本当なら、僕は今日またあの子に逢える。それだけで十分だった。僕は宿題をさっさと終わらせて、夕飯をいつもの1.5倍のスピードで食べ、シャワーを浴びて、いつもやっているゲームもせずにそのまま布団の中に滑り込んだ。準備万端、さあいつでも来い!気合を入れすぎのような気がしたけれど、不自然なほどストンと眠りが僕の意識を奪った。
気が付くと、僕はいつもの森にいた。そして彼女に逢えた。それがもううれしくて、うれしくて、思わず涙が出てしまった。彼女は笑っていた。僕もつられて泣きながら笑った。
そしていつも通り鬼ごっこ(二人でも鬼ごっこって言うのかな?)や彼女の好きなおままごとなんかをやった。一通り遊んだ後、僕は遊びつかれてゴロっと大の字になった。汗が肌をしたたる感触がとても心地よかった。目に映るのは力強く天に向かって伸びた木々と、そこの隙間から見える青い空。抜群にご機嫌だった。突然視界に彼女の顔が入ってきた。僕の顔を覗き込んではにかんだ。その笑顔で僕はあることを思い出した。そうだ、僕は彼女を知っている。なんで忘れていたのだろう。
「私のこと覚えてる?」
彼女はそんな僕の心を見透かすようにそういった。僕は即答した。記憶の奥底に眠っていた彼女の名前を。すると、彼女は笑った。いままでの心が安らぐ笑顔ではなく、体に流れる血が凍るような、まるで罠にかかった獲物の愚かさを嘲るような。そんな顔で笑った。
「はははははははははははは!」