夢現の世界
毎日のように見るリアルな夢。過去の記憶というより、実際にあの子と別の世界で会っているかのような感覚。そして今朝に聞いたあの言葉。そして彼女の笑顔。どうやら僕は完全に夢のあの子の虜になってしまったようだ。
突然、何かが前から飛んできて、額にクリーンヒットした。正気に戻って僕は前から飛んできたものを見た。白のチョークだった。
「ナイスピッチですね先生」
僕は額をさすって教壇に立っている先生を見た。
「なんだかものすごく幸せそうな顔をしていたから投げてみた。意外と当たるもんだな。」
先生は笑いながら言った。
「いいことでもあったのか?でも授業中はちゃんと話を聞けよ。教科書が逆さだ。」
僕は急いで教科書の向きを直した。言い訳はできない。「夢に出る女の子にぞっこんなんですよハハハ」なんてことは死んでも言えないからね。その場は適当にはぐらかした。
授業が終わると前の席に座っていたユウスケにからかわれた。
「優等生のお前が怒られたのを見たのははじめてだ。しかもチョーク投げられてやんの。今日は空から魚でも降ってくるかもな。」
「うるさいな、ちょっと考え事していただけだよ。」
「へーなんか考え事っていう割にはニヤニヤしてたよ?もしかして好きな子でもできたんじゃない?恋わずらいってヤツ?相談に乗るよ。一回2000円ね」
今度は横の席のカオリがニヤニヤしながら言った。
「なにそのボッタクリな値段、てかいいだろ、僕がなにを悩んだってさ。」
この二人とは中学生のときからの腐れ縁で、高校も一緒に受験をした。ユウスケは偏差値ギリギリでの受験だった。だからカオリと僕はひとつランクが下の高校に入ろうと提案けれど、プライドの高いユウスケはその後猛勉強。一日平均12時間勉強をして、見事に今の高校に堂々と入学することができた。鈍感な僕は後で知ったんだけれど、ユウスケがカオリのことが好きらしい。なるほど愛の力は偉大だ。もっともカオリは僕以上に鈍感だから進展は無いみたい。二人の仲がうまくいくようにしたいのは山々だけれど、今は自分のことで精一杯だ。僕の頭の中は夢のあの子のことでいっぱいだから。
「まあいいや、それより聞いた?謎の転校生の話」
ユウスケは急に真面目な顔で言った。それに噂マニアのカオリが光の速さで反応した。