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夢現の世界

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 ここ一週間、よく夢を見るようになった。しかも内容は毎回同じ夢。見覚えの無い田舎の山の中で、子供の頃の自分が、和服を着た女の子と遊ぶ夢だ。いままで見てきた夢とは違い、この夢はいつも非常にリアルで、川の浅瀬で遊ぶ時は水のひんやりとした冷たさを感じることができ、アブラゼミ達が短い命を燃やしながら懸命に鳴いているのを聞く。目には山の雑木林の中からの木漏れ日を少しまぶしくて、同時に木の醸し出す心地良い匂いでこころが休まる。このようにすべての物を五感で鮮明に感じるため、目覚める瞬間までそれが夢だと気づかない。とにかく不思議な夢なのだ。

今朝もまた同じ夢を見た。ただひとつだけいつもと違うところがあった。女の子がこう話しかけてきたのだ。
―「私のこと覚えてる?」
微笑みながら僕を見た。こんな笑顔でみんな笑えたら、きっと世界から戦争は無くなるだろうというような微笑だった。

僕は目を覚ました。一瞬放心状態になって、そして少し夢の中の女の子が言っていた事と、最近の夢について少し考えてみた。自分の中の記憶を総動員してみたが、僕は東京育ちで、遠足のときぐらいしか山に登ったことは無い。また夢の女の子にも見覚えが無い。もしかしたら記憶力の無い僕だから、ただ忘れているだけなのかもしれないとも思った。実際小学生低学年の頃の記憶は殆ど無い。でも知っているなら絶対忘れるようなことは無いだろうと断言できる。それほど夢の中の女の子は印象的だった。

そして、今朝見た夢の少女の問いかけ。なにもかも覚えが無い。彼女はいったいどこの誰なのだろう。しばらく布団の中で考えていたけれど、母親の早く起きないと遅刻するわよという声を聞いて、僕は布団から飛び起きた。時計を見ると時間ギリギリ。急いで準備を済ませて僕は家を出た。

 学校は嫌いではなかった。今自分の生きているこの世界がいかにして出来上がったのかなどの話を聞くことができる。今はもう会いたくても会えない、亡くなってしまった人の本を図書館で借りることもできる。運動神経は中の下だったけれど、体育の時間で運動をして汗をかくことも嫌いじゃなかった。自分の知らない知識を教えてもらうということは、とても面白いことだった。

 でも今日は授業を聞くなんてできるはずがなかった。夢のことで頭がいっぱいだった。
作品名:夢現の世界 作家名:伊織千景