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オレたちのバレンタインデー

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16 近づいてくる真実―K子‐Teacher.A‐O


 あたしと先生は、廊下を走って、校舎の教室からトイレに至るまで一つひとつ中を覗く。あいつの姿はない。ただ顔も知らない学ランがうごめいているばかりだった。
「これで、校舎内はくまなく廻ったはずだ。おかしいな、影も形もない」
 先生が息を切らして、校舎最奥部で立ち止まった。
「外に出たということは?」
「まずないな。校舎の窓から周囲は遮るものなく見渡せるのだが、らしい者は見受けられなかった」
 どうしよう。あいつはひどい目に遭うに決まっている。馬鹿な奴。いつも自分で災難を振り撒いて、自分で足を取られ。きっと今回だって、結局合コンが嫌になって抗議したに違いない。
 チョコレートの包みを抱きしめる。あいつのとOのと、二つ。中身がぐしゃぐしゃになってはいないだろうか、何しろ全力疾走してきたものだから……。
「なんとしても見つけ出さねばなるまい。これは私の、教師としての意地だ」
 先生が拳を握り締める。この人も、あいつに何か恨みがあるらしい。
「先生、今度は教卓の下からトイレの掃除用具入れまで捜しましょう。もしかして、校舎のどこかに秘密基地みたいなのを作ってるのかも」

 少女と頷き合い、走り出そうとしたその時だった。
 廊下の向こうから、何者かがドタバタ走ってくる。
「……っ! A、A先生っ!」
 苦しげながらもなお知的な響きを残すそのテノールは、間違いなくOだった。しかしその後ろに迫る黒い影は――
 私よりも先に、少女が間に割って入った。
「!? お前はさっきの」
 黒い影――確か二年の不良グループの一員だ――は、驚いて目をぱちくりさせる。
 少女は身長差や体格差など意に介さぬ様子で相手を見上げた。
「あんたたちねっ。こそこそ合コンやったりあいつやOくんを追いかけ回したり、いったいどういうつもりなの」
 ……合コン?
 私の目は点になった。こいつら、まだ高校生のくせにそんなことを? 腹を抱えて笑い出したくさえなる。そうか。問題児が裏で動いていたのもそのためだったのだな。
「いやー結構けっこう」
 我慢できなくなって、大股で歩いていき、少女の隣に立った。
「君たちの早熟さには感心するばかりだ。ところで君、具体的なプランを教えたまえ。よかったら私も参加したいな」
 勿論皮肉だ。大人となった今にしてみれば、合コンとはいかに華やかでいかに虚しい行事だったろう。