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オレたちのバレンタインデー

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15 一進一退―オレ


 Zのオセロは本当に滅法弱い。第一、敵の配置に構わず中央に四角形のバリケードを作ろうとすることからして馬鹿げている。この男はオセロのルールをまともに理解しているのだろうか。
 しかしオレは、慎重に、なるべく時間をかけて戦うよう尽力する。時間を稼げばまだ望みがあるというわけでもない。が、生存の時間を少しでも長くしたいと願うのが凡人の最後の悪あがきだ。
 オレは白、Zは黒。盤はもう半分程度埋まっている。ただ、オレは勝敗をつけるのを避け、Zはこの上なく自分勝手にゲームを進めているため、現在白黒は殆ど同数である。
 Iの計略に見事にはまったと言わざるを得ない。権力者の会長Z、勝てば機嫌を損ねる。負けても裏切りの罪が待っている。バレンタインを楽しむ者への最大の嫌がらせだ。こんなにまでしてバレンタインを拒む精神力は、いったいどこから湧いてくるのか?
「……副会長」
 ふと、Oが口を開いた。
「トイレに行きたいのですが」
 な、なんと! 幾らなんでもそれはないだろう、親友が生死の境をさまよっているというのに。
「ほう。友人を見捨てるのですか」
 Iのねっとりした声が批難がましく響いた。
「いえ、すぐに戻りますので」
 Oはいやに穏やかに答える。
 では、と言い残し、資料室のドアの開く音がした。
「……奴を捕らえなさい」
 Iの鋭い命令。さっきオレにのしかかっていた巨漢が、慌てて後を追った。遠ざかる二組の足音。
「ふん、バレバレだな。Oの頭脳も所詮そこまでか。助けを呼びに行こうなんて甘いね」
 Zが笑った。なんだ。オレを見殺しにするわけではないのか。いや、胸を撫で下ろす場面でもないが。とにかく友情は証明されたわけだ。
「さあ、問題児、Oとの厚い友情が確認できたところで、ゲームに戻ろうじゃないか。お前の黒の動きが大分停滞しているようだが?」
 Zが、神経質な笑みを浮かべてオレを見た。