オレたちのバレンタインデー
自転車カゴが、小さな段差の度に揺れる。途中、T高校の学ラン集団を何度か見かけた。猛スピードで走っていったのでよく分からなかったけど、なんだかあたしを睨んでいるような気がした。
……というか、気がしただけではない。明らかに後ろを追いかけられている!
「そこのお前、止まれー!」
「抵抗するな、女子を傷つける気はない!」
足音や怒号からすると、相当な人数のよう。道行く人々がこの一団を凄く訝しげに眺めているのが分かる。
……考えてみたら、なんかおかしい。
あたしたちをわざわざ阻止するメリットがないじゃない。アンチ・集団合コンを知ったとして、あたしたちの突撃を回避するのがせいぜいじゃないかしら。
じゃ、どうして? あたしはどうして追いかけられてるの?
「――止まれっ!」
川向かいのT高校目前、橋の歩道の真ん中辺りで、突然低くざらざらした声が響いた。今まで沢山の制止を振り切ってきたにも拘わらず、なぜかあたしはブレーキをかけてしまった。
途端、学ランがわらわらとあたしの周りを囲んだ。
「彼方から駆けてくるセーラー服、自転車カゴに入った怪しい物品。T女子高校の生徒か」
声が分厚い学ラン層の中を近づいてくる。
「可哀相だが、今のT高校生徒会の方針により、これ以上その行為を進ませるわけには――」
声の主が現れた。そして、顔を見合わせた瞬間、互いに絶句した。
だって、それは……
「K子。なぜ、ここに」
あいつだったから。
作品名:オレたちのバレンタインデー 作家名:貴志イズミ