オレたちのバレンタインデー
6 危険な会議―O
西校舎に遮られ、夕陽の当たらない東校舎の奥。光の届かない一角に、僕たちの活動場所はある。
古より伝わりし秘密の部屋、別名資料室。恐らくその存在意義に気付く教師・生徒は殆どいないであろう。「資料室」とは名ばかりの、物置である。年に数回、要らなくなった書類や教科書やその他諸々を持ってきては部屋に押し込んでいく。業者が掃除することは十年に一度あるかないか。
建て付けの悪いドアに手をかける。がたがたと耳障りで野暮ったい音を立ててドアが開くと、
「やあ、待っていたよ書記兼会計君」
男にしては少々トーンが高く、しかしねっとりとした声が、積み上がった書類の山の向こうから聞こえた。
迂回路を探す。と、隅から真っ黒なキノコのカサが頭を出した。
「本当に、待ちくたびれたよ」
カサの下の眼鏡は、心底楽しくて仕方がなさそうに光っていた。
「さ、おいでよ。定例会を始めよう」
――こうして、今日も生徒会本部は活動を開始する。
山を抜けると、薄暗い照明の下、向かい合わせの長机が二つと、椅子がそれぞれ二つ並んでいる。机の横で、貧弱そうな男が独りオセロをしていた。本人は来たるべき相手を想定してシュミレーションしているつもりらしいが、駒の出し方が全く同じなので勝負がつかない。
僕たちはそれぞれ席についた。
「会長! 来ましたよ」
副会長Iの声に、会長Zは顔を上げた。その肌のなんと色合いの良いこと。またその目つきには、上から命令することに慣れた傲慢さが見て取れる。
「うるさいな、今ボクはオセロ世界王者と戦っているんだ。邪魔しないでくれ」
校内でもこの調子なものだから、彼が会長だということ、オセロ好きであることはほぼ明らかになっている。しかし、非難しようとする教師も生徒もいない。なんと言っても世界的大企業の御曹司だ、そんなことをしたらどうなるか。たまったものではない。
「……では、とりあえず二人で今日の会議の打ち合わせをしましょう」
Iが言う。これもいつものこと。定例会なんてやったためしがない。
「さて、本日の議題は、アンチ・バレンタインデー計画について、です。
本校生徒にバレンタインデーなどという俗な行事を享受させないため、俺たち三人で罰していこうということになりました。そのために金で雇った生徒が百人、自ら賛同してくれた生徒が五人、パトロールしてくれています」
作品名:オレたちのバレンタインデー 作家名:貴志イズミ