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オレたちのバレンタインデー

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 敬語で聞かれたら敬語で返さないのがオレの主義だ。前にこれをやったら金髪のデカブツにぶん殴られた記憶があるが、キノコは特に拳に唾をかけるでもなく、タラコ唇を三日月形に保っている。
「先日の会報に文句があるそうではないですか」
 語気も穏やかだ。だが確実に暗く何かまがまがしいものが眼鏡の奥に隠れている。――副会長の手勢か。
「え? オレはなんとも思っちゃいないぜ」
 言いながら顔が青ざめるのを感じた。なんというプレッシャー。この男……、ただのオタクみたいな容姿、だがその一枚下には、とんでもない毒牙が潜んでいるに違いない。
 そのオレの様子に果たして気付いたのか気付かないのか、キノコは続ける。
「ではどこで、副会長がIであるなどという情報を得たのですか」
 Oだよ、と言いかけて、はっと口をつぐんだ。名前を教えたら、奴の身が危険にさらされることは間違いない。
 かなりの間の後、なんとか答えた。
「……噂で、聞いた」
 明らかに嘘をついていると見破られてしまうだろうが、こうなったらやけくそである。Oはオレに忠告してくれただけだ。巻き込んでしまったら申し訳ないでは済まされない。
「まあよいでしょう。調査すれば分かることです」
 キノコはおかしそうにくくくっと小さく声を上げて笑う。
「ではさようなら、問題児君」
 のっそりのっそりと、コンピュータ室から出ていった。
 ――これは、もしかして親友の絶体絶命のピンチではないか……!? しかも、こともあろうにオレが引き起こしてしまったピンチだ。呑気にプログラミングなどしている場合ではない。O……!
 あいつはいったい、放課後何をしているのだったか。一刻も早く、この緊急事態を知らせなければ。