オレたちのバレンタインデー
5 ご対面―オレ
Teacher.Aに任せれば大丈夫だろう。いけ好かないが、T高校超進学校化には人一倍熱心な教師だ。何か有力な情報を掴んで帰り、早速職員会議の議題に挙げるかも知れない。うまく事が進んできた。
午後は滞りなく終わり、オレはいつも通り物理部に向かった。
物理部と言っても実質パソコンクラブのようなものだ。放課後好きなときにパソコン室に行っては、R‐18スレスレの解像度の悪い写真や、かなり過激な描写の文章を読む。毎年一度の研究発表会では適当にコンピュータ・ゲームを出品する。ただそれだけの部活だ。
そんなわけだから、部員数さえ把握しきれていない。なぜか一年生にして部長になってしまったオレは大変な苦労を強いられているのである。
今日も、入室すると四、五人の男どもが一つの液晶画面を覗き込んでニヤニヤしていた。誰も部長の来たのに気付かない。黙って手近なパソコンの電源を入れ、鞄から開発中のソフトを取り出した。
言っておくが、オレはいやらしい写真や文章には一切興味がない。清廉潔白だ。きちんとした物理実験のために入部したはずなのに、いつの間にか奴らの体のいい雑用係になってしまった。しかもよく分からない伝統で、部長がコンピュータ・ゲームを開発せねばならないのだ。逃げ出そうかと何度も考えたが、結局ソフト完成までは残留することにした。
Windowsの画面が表示される。デスクトップの背景は卑猥な写真が占めているが、こんなものは慣れっこである。ソフトの編集画面を開く。コンピュータ言語がずらりと羅列した。
オレが約一年間開発した成果があって、かなり面白い作品になっていると思う。自慢ではないがコンピュータは得意らしいのだ。
さて、とおしまいの方の言語を書き足そうとしたところ、
「ちょっといい?」
後ろから物凄く陰気な気配と共にもってりした手が肩をつかんだ。振り返ると、顕著なキノコ頭と分厚い眼鏡の男子が、唇を歪めて笑っている。
「あなたが有名な問題児ですね?」
な、なんだって。問題児ではなく優等生で通っているはずだが。なんて無礼な。
しかし初対面の相手にいきなりそんな言葉をぶつけるのも酷だろうと思って、精一杯の笑顔で答える。
「何か用かい」
作品名:オレたちのバレンタインデー 作家名:貴志イズミ