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世界はひとつの音を奪った

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 「やぁっぱりね。」
 僕は正直、メンドウなのに声かけちゃったかなー…と思った。
 別に失敗したなー…とは思わないのが性分。
 「…ぇ、なんで。」
 「同じような顔をした人を見てるからね。一番最初は鏡の中。」
 にへら…と笑って見せた。
 「かがみ…?」
 「まぁ深い意味は考えないでおくれよ。面倒だしね。ところで、やっぱり家出?」
 「…ぇ…あ…。」
 少年は視線を落としてうつむいてしまった。
 そして小さくうなづいた。
 膝の上で綺麗な手を強く握り、何かをこらえている。

 こんな小さな身体に、何を溜め込んでいるのやら…。

 ため息を一つついてから、少年の視界に入り込むようにしゃがみこんだ。
 そして、人差し指と中指、薬指を立てた右手を突き出し、3をつくる。
 「はい。選んで。一つはお巡りさんのところに行く。親切な交番知ってるから教えてあげるよ。二つ目は自分で帰る。こっから先はお兄さんの管轄外。まぁ帰る足で他所へ行っても僕は構わないけどね。んで、三つめ。自分の名前を名乗ってから、お腹のすいているお兄さんと、ハンバーガーを食べに行く。さぁ、選んで。」
 少年はまっすぐに僕を見つめ…というか、キョトンとしたままなのだけれど、羅列された言葉を飲み込むのに時間をかけていた。
 視線が泳いでいるのが分かるが、生憎僕はサングラスをかけているのでその動きを追いかけてあげない。
 少年はゆっくりと答えた。
 「…し、椎名です…。」
 「…。そうか…。それは苗字?それとも名前?本名かい?」
 「本名…です。椎名…壱弥って言います…。」
 「イツミ。変わった名前だねぇ。あ、ボクはノイズ。もちろん偽名だから。」
 ケラケラと笑うと、少年のサラサラとした髪をグシャグシャと撫で、立ち上がる。
 「安っすいバーガーと、美味しいバーガー、どっちがいい?」
 先立って歩く僕の後を、少年は本当についてきた。