世界はひとつの音を奪った
赤と黄色をイメージカラーにしたお店は夕方、学生でにぎわっていた。
といっても、そんな人込煩い店内で食事をする気はなく、テイクアウトですぐに店を出た。
少年…壱弥君は店の外で待っていた。
「コーラとウーロン茶、どっちがいい?」
僕はMサイズのドリンクを二つ差し出す。
「…う、ウーロン茶…。」
「よかった。僕コーラが良かったんだ。」
壱弥君はガードレールに寄りかかっていた。
僕は汚れることなど全く気にせずに彼の隣に、床に腰を下ろした。
袋から一番安かったハンバーガーを取り出すと、少年に一つ差し出す。
「悪いねぇ。お兄さんもお金持ちじゃないから、高いのは奢って上げられないのよ。」
「え、あ、い、いいえ!は、払いますっっ!」
「いいって。家出してきたんでしょう?お金必要になるよー?」
「で、で、でも昨日だって…」
あ…そうだった…と思い出した。
なんとなくこぅ…野良猫に餌をあげた気分程度でしかなく、そして今もそうなのだが、別にお礼が欲しいわけでも、深い意味があったわけでもない。
その程度なのだが、彼には少々気を使わせてしまったらしい。
「んー…まぁ遠慮するのが普通か。んじゃ、いつか僕にお弁当奢ってよ。それで帳消し」
「い、いつかって…」
「エビフライが入ってるやつがすきなんだー。」
ケタケタと笑う。
ズズズとコーラを飲む。
情けない大人だと思うだろう。
でも、気取ってるのは僕らしくなくて好きじゃないんだ。
「…あ…あたま。」
「ん?」
「…頭付きの奴でいいですか…?」
ちょっと僕の予想とは違う答えが帰ってきた。
とても真剣な顔で、様子を伺うように僕を見ている。
「ぶっはっ!」
思わずコーラを噴出しそうに笑ってしまった。
作品名:世界はひとつの音を奪った 作家名:黒春 和