世界はひとつの音を奪った
隣で覗き込んでいた兄ちゃんは、待ち合わせの彼女が来たのかどこかへ行ってしまった。
入れ替わるように黒のパンク服のカップルが鞄を除き、大きい指輪を数個買っていく。
次に来たのは、顔なじみの女子高生3人組。
今日は売り上げ上場のようだ。
サングラスをしているのは、何もカッコつけのためだけじゃない。…そりゃちょこっとはカッコつけてるつもりだけど。
実際には相手を見ているのが誤魔化せるからだ。
人間観察というか…街を好むというのは、べつに建物を愛しているわけじゃない。
そこに人がいて、蠢く風景。
人はそう、世界という風景の一部みたいなものだよね。
そして、僕の前で足を止める人間はどんな人なのかとか、僕はそういうのを見るのが好きだ。
いろんな人がいる。
それがとても心安らぐ…。
人の海の中で、今も息をしていられるんだと実感する。
僕が誰の手をとらなくても。
「あのぉ…」
サングラスをしているせいで、たまに寝ているのも気づかれないときは、まぁある。
ぼんやりとしすぎていたのか、僕は目の前の彼に気がつかなかった。
作品名:世界はひとつの音を奪った 作家名:黒春 和