世界はひとつの音を奪った
桜も散った5月。
今、僕の興味をむけているのは、目の前のオッちゃんの読んでる新聞の一面。
またタバコ税をあげるとか書いてある。なんという迷惑な。
政治家は嫌いなジャンルだ。
詭弁と建前と、信念と思惑が交錯する会話は聞いてて気持ちが悪い。
奴らは本性を隠すプロ集団だね。
ガードレールに背中をもたれかけるように、広場に座り込む。
ちょうど植木の日陰になって、風は涼しいが、アスファルトは相変わらず熱い。
モザイクタイルの床にカバンを開く。
中には、綺麗に輝くアクセサリーが並ぶ。
僕個人の趣味はシルバー系だが、最近は女の子向けのビーズアクセなんかもある。
物珍しそうに近くにいた女子高生が覗きに来る。
パンツは隠したまえよ、花咲く乙女。
すらっとした兄ちゃんが上からカバンを覗く。
床に小さなシートを広げ、そっちにはヘアーアクセと缶バッチをごちゃっと置く。
僕は無言に座る。
ちょっとした露天だ。
そのうち、パンツのお嬢ちゃんがシュシュをもって、いくら?と聞いてきた。
君可愛いから300円でいいよ、と答えると、彼女は4つ買っていた。
いえいえ、どうも、縞々ご馳走様、と思ったのは内緒。
作品名:世界はひとつの音を奪った 作家名:黒春 和