世界はひとつの音を奪った
玉葱は苦手だ。焼いても煮ても僕は食べられない。
だけど僕は大人だから、ほどよく我慢して食べつくす。
パティと一緒に口にしてしまい、お茶と流し込む。
これが人の世に似ていると思う。
僕にも嫌いなものは人並みにある。
ニンジン、しいたけ、生魚。
食べ物以外なら、ホラー映画、ギャル系集団、オタクたっぷり秋葉原。
それから、優しい子。
「さて。」
バーガーの紙くずを小さく丸め、ポケットに突っ込む。
道端に捨てるなんてことはしませんよ。
そして仕上げとばかりにタバコをくわえた。
「で、今日はどうする気だい?」
「…え?」
僕は壱弥君の顔を見ない。
「……。」
途中まで食べかけていたバーガーを見つめ、声がとふぎれる。
次の言葉が、返ってこない。
「この街に来てどうしようと思ったの?」
「…。」
「誰かが助けてくれるとでも思ったの?僕が、親切に声をかけてくれると思ったの?それとも、適当な人に…?」
「…。」
「そんなんじゃ君、いや、君みたいな子なら尚更、必ず後悔するよ…?」
「でもっ!!」
黙っていた彼は声を上げた。
僕が、声を上げさせたのだろうか…?
「ぼ…ボクにはもう…どうしたらいいか…分からないんです…どうして…」
どうして、上手に、もっと皆と同じように…
「…ガッコ?」
「……。…はい…。」
そんな気はしていた。
どういうわけか、クラスに一人、こういう子はいるよなぁ。
自分はどうだったろうか…もうちょっと違っていた気もしなくもない。
どうだったっけ…?と、完全に彼の言葉が人事にしか聞こえない。
悪気はないのだが、僕は笑ってしまった…。
煙を吐いて、嗤った。
自分が最低に思えたけれど、それは錯覚ではなく、僕が選択する生き方なのだ。
僕は彼の髪を撫でた。
「帰りなさい。」
作品名:世界はひとつの音を奪った 作家名:黒春 和