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『アフターケア』episode 01

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(5)凌霄花



次の日も、あのゴミ屋敷に向かった。
翔ちゃんは夏場の外の仕事は、(河童の翔)の名が廃ると言って外の作業はいっさい私に任せると中に入ったきり出て来ない。

(庭の片付けがある程度めどがついた時、ふとあの凌霄花に目を向ける。
今日も居た。悲しげな表情でお婆さんがこちらをうかがっている。
何が言いたいのか私には解らない。
そこまでの力は私にはなかった。
けど、翔ちゃんはある程度なら意思の疎通が出来ると言っていた。
だから、ケアすると話したんだと思う。
次に何をするのか解らないまま、作業を続ける。)

・・・・・

何、ぶつぶつ独り言ってる?
はっきりしゃべれ?。
五月蝿いわね、暇ならあんたも手伝いな。
ま・え・は・ら。

(助監督の前原は完全に、私の下に見ているのだ。かなり年上だが…ホホッ)

その時、翔ちゃんからお声が掛かり、振り向く。
「千里。少し休憩しよう」
だいぶ片付いた縁側で、翔ちゃんが笑っていた。
「うん、解った」

(縁側に二人並んで座ると、翔ちゃんが凌霄花をじっと見詰めている。
その横顔を私は覗き込んで見た。だが何を考えているのか解らない。でも、ちょっと悲しげな表情だ。)

「ねえ、何が解るの」
「あっ、ほんの少しだけ。婆さんの気持ちが伝わってくる感じかな」
(私達は、スタッフに聞こえないように静かに会話した)
「それで、何て?」
「お願いいたします。ってさ、それだけだ」
「お願いされちゃあ仕方がないね。便利屋だもん」
「ああ」

(二人の様子を見ていた、前原が変な顔でこちらをうかがっていた。)

その夜、楓さんからメールが届いた。
内容は、昨日頼んだ預金通帳からお金を引き落とした人物について、それと、なくなった短刀のことも記載されていた。

まず。鈴木トメの預金通帳からお金を引き落とした人物だが、ATMからの写真はある。
それを見ると、どうやらおばさんのようだ。
だが、本人の情報は残念ながらない。
前科者ではないのだろう。

次に、短刀だが。あの古びて不鮮明だった写真は、よりシャープにし鮮明な画像処理を加えてある。前のよりは雲泥の差があった。
この短刀はかなりの年代物だったらしく。
名のある刀鍛冶によるものだった。
その名が「短刀 無銘(名物○森○宗)」
 
これを見た翔ちゃんが、いきなり立ち上がると携帯でどこかに電話し始める。
 どうやら、政やんのところらしい。
「あ、政文。俺、翔だけど、少し聞きたい事があるんだけどいいかな。ああ、うん。あのゴミ屋敷の住人のことで、半年以上前になると思うんだけど、あそこの婆さんからか、若しくは通っていたとこの担当医から頼まれたことってなかった。そう、うん。それでいい。うん、ああ、解った。ありがとう」
 翔ちゃんは、何やらメモを取るとそれを私に預けて、また電話しだした。

「あっ、政五郎さん。翔ですけど、ご無沙汰しています。少しお話いいですか?はい、実はお願いがありまして、ええ。いいすか?あの、政五郎さんの知り合いの骨董屋で半年ぐらい前に、短刀を買い取った店がないか聞いてほしいんです。ええ、刀の短刀。はい。いいですか?はい、ではお願いします」
 ヨシッという顔でこちらに向き直ると、笑顔で私にこう告げた。
「千里、明日な、そのメモに書いてある場所に行って、さっき楓さんから届いた写真のおばさんが居るか確認してくれない。もしいれば、その人の顔写真を隠し撮りしてきて、あとは、できれば名前が解ればなおいいかな」
「えっ、此処に?あのおばさんが居るの?でも、どうやって名前なんて調べればいいの?今は、なんたら保護法で簡単には・・・」
「個人情報保護法な。そうだなあ」
 翔ちゃんは、右人差し指を唇にあて何かを考えているようだ。
「なら、こんなんでどう」かと私に策を教えてくれたのは二パターン。
それを私にやれと?
私は渋々了解して、翌朝メモの場所に行くことが決まった。
「それじゃあ、頼む。俺はゴミ屋敷を担当するからさ」
ニヤリッと笑う翔ちゃん。もしかして、暑いのが嫌なだけでは?


作品名:『アフターケア』episode 01 作家名:槐妖