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ボクが召し使い

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「ガイ君、あなたはあたしについてきて。今の戦場の現状を把握してもらいたい」
 外からは大きな奇声が聞こえてくる。どうやら戦争になっているのは本当らしい。
「待て、まずアルク様に会わせてほしい。現状把握なんて、それからでも遅くない」
 ボクはソファーから飛び上がり、かけてあった自分のマントを手に取った。
「ガイ君、アルクは今あなたと会いたくないとのことです。本人からそう申されているのですから、
 あなたが会う権利はありません」
「何故アルク様はボクを拒否する」
「あなたが彼にとって真の召し使いでありたいのであれば、私の言うことに従ってもらいます」
「どうしてボクがミルムの指示を受けなきゃならないのだ」
 その時、大きな木製の門がきしみ始めた。どうやら敵軍が押し寄せてきているらしい。
「ガイさん、今はまずこの場を切り抜けることが優先です。さあ、刃を握って」
 ボクは何もわからないまま、鞘から刀を抜いて門の前へと立つ。
「アンドレ、ボクたちは一体誰と戦うんだ」
「門の向こうに、その答えがありますよ」
 ミルムと一人の男が指揮を取る。
「ガンダル騎士団、ガイン、リベル、アルメストの三人とその部隊を突撃の陣に振りまく」
 リベル?まさか・・・。
「ガイさん!来ますよ!」
 アンドレが剣を構える。

「討ち取れーっ!」
 一気に敵が部屋に入り込む。
 その中をボクとアンドレは刃を振り回して、次々と斬り倒して行く。
「こいつ等・・・」
 その時初めて敵が誰なのかを知った。レンバーナイトの旗を掲げた兵士がいたのだ。
「ガイさん!ミルムさんについていってください!」
 言われるがまま、ボクは部屋の奥で手招きをしているミルムのところへと駆けて行った。
「ガイ君、これでわかったでしょ、敵はレンバーナイト家。あなたは4日間、気を失っていたのよ」
 なるほど、記憶が無いはずだ。
「あなたはパシグィルフの屋敷にリベルをフォブレットの教会から連れて帰るとき、きっとヴィスマ
 の集団に襲われたのよ。彼等はあのデスソウルの魂を復活させた張本人、邪魔者がいるのであれば、
 手段を選ばない。ヴィスマの集団は、あなたたち召し使いや、それを指示する屋敷主を消し去る
 つもりなの。主がいなければ、デスソウルは再びテンペストに封印されることは無い」
「テンペストとは、一体?ヴィスマの集団はデスソウルをどうしたいんだ」
 ボクとミルムは、長い階段を駆け上がりながら話を続ける。返り血を浴びたミルムのマントが目の前を
 ひらひらと靡いている。
「テンペストとは、この地獄よりも下の層に値する、悪夢のような世界のことよ。過去にレミーアが
 地獄に飛び交う邪悪の魂、デスソウルをテンペストに落とし、入り口は封印。その後の地獄には平和が
 おとずれ、地獄らしからぬ世界観に満たされたの。それで、ヴイスマ教団ではその事実を良く思わない
 団体が現れて、その彼等が、ガイ君を襲ったのかもね」
 ヴィスマ教団、要は中立的存在なのか?
「着いたわ、見て、セブール城全体がレンバーナイトの敵兵で押されている。ガイ君、あれを全部倒す
 のにどれぐらいかかる?」
「数にもよるが、これだと大体30分もあれば全て片付く」
「偶然ね、あたしもそれだけで十分だわ」
 二人は目を見合わせて、ボクはしぶしぶながらも刀を大きく振り上げて、敵陣へと斬り込んで行った。
 
 静寂に包まれた戦場の跡地を眺めると、ボクの後ろにはレンバーナイトの兵士の死体の山が出来ていた。
「ボクは、何をしているんだろう」
「ガイ君、いたいた」
 ミルムの手には、なにやら箱のような物が。
「それは?」
「ヴィスマ集団の一人の首よ。コイツが元凶」
 ボクから記憶を奪った本人なのかもわからなかったが、それでもやはり憎い。
「ガイ君、あたしはこの箱をテンペストへの入り口へ持っていくわ。あなたはリベルのやつに会いに
 行ってあげて。彼、あなたを待ってるみたい」
 そう言うと、ミルムは走ってテンペストの入り口へ向った。
 ボクは、リベルが待つセブール城に行き、破壊された門を跨いで入った。
「リベル、アンドレ、アルク様」
 声が城中に響き渡るが、返答は無い。
 すると、小さくて聞き取りにくかったが、なにやら話し声が隣のドアから聞こえてきた。
 耳をドアに密着させる。
「アルク様、本当ですか、ガイをビジョンへ送り込むという話は」
 ボクをビジョンにだと?そんなことしたら、ボクはアルク様との契約が終わってしまう。何を
 言っているんだ?
「アンドレ、これからもガイを頼む。僕はこれからテンペストに向うよ」
 最後のアルクの一言に、ボクは動かざるを得なかった。衝動を抑え切れなかったのだ。
「アルク様、どうして・・あなたもボクを捨てるんですか」
「ガイ!」
「ガイさん、違います、そういうわけでは・・・」
「うるさいアンドレ、お前には聞いていない」
 なるほど、だからボクは戦争の最前線に立たされていたのか、よく出来たものだ。
「ガイ、ヴィスマ教団とテンペストの話は、ミルムから聞いたな。僕はこの騒動を終わらせるために、
 自らテンペストに向う。そうすれば、ヴィスマの集団は嫌でもテンペストに入り込むだろう、そして
 その上から封印すれば・・・」
「でも、それではアルク様は奴等に殺されますよ」
「それも覚悟の上だ。リベル、アンドレとガイを連れて、ビジョンへ行ってくれ」
「待て、ボクはまだアルク様と話をして・・・」
「リベール!」
 リベルがボクの身体を持ち上げて、小さく呪文のような言葉を呟いた。
 目の前が光に包まれる。そして、いつしかリベルのボクを掴む腕の感触が無くなり、自分一人が
 空に浮いているような感覚だ。
「ガイ・・・ようやく来てくれたんだ・・こんにちは。というより、久しぶり、かな」
 音も背景も何も無い世界に、突然ボクの目の前に背中を向けた男の人が話しかけてきた。
「君は捨てられたんじゃない。これは使命なんだ。理由が知りたい?自分が何の為にこの世にいるのか、
 どうして彼は世界を裂いてまでも君を引き離したかったか、それも知りたい?」
 男は腕を細かく動かして、でも決して顔をボクに見せないでいた。
「その全ての答えは、君の後ろにあるよ」
 その言葉を最後に、真っ白な世界は開けた・・・。
 
「アルク様っ!」
 目を開けて、ボクは飛び上がる。
 見回すと、周りは木で囲まれていて、木の葉から差し込む太陽の光が、ただボクを照らしていた。
 立ち上がり、「ココ」には自分しかいないことを確認し、ボクはこのうっそうとした森から出ようと
 試みた。やがて風が吹き込んできて、前髪を強く靡かせた。森から抜けると、そこにはどこまでも
 続く黄金色の草原が広がっていた。
「ガイさん、よく出てきましたね」
 アンドレが腕を組んで傍の木の幹に寄りかかっていた。
「ここが、アルク様の言っていた幻想と思考のみで出来た世界。ビジョンです」
 ビジョン・・・それは、さっきまでいた世界とは違うのか。
「まあそういうことになるでしょう。おそらくこれが、アルク様が想像する夢の世界なのでしょう」
作品名:ボクが召し使い 作家名:みらい.N