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ボクが召し使い

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 黒い衣をひらつかせ、男はゆらりと私に近づいてくる。
「あの人なら、死んだよ」
「?」
 話の先が見えてこない。それはどういうことだ。
「僕がやった。地獄指揮官令状からの依頼。午前11時29分、ルマーン=ビスタルク、
 地上にてパシグィルフ家の血が流れる一人の男を助けたことにより、判決が下されました。
 被告、死刑に処す。故に本日、処刑人、リベル=ノクターンに、彼を処刑を許可す」
「どうして・・・何で人一人助けた人が、処刑されなければならない、どうして」
 膝まづくボクを男は冷たい目で見下ろし。
「僕は命令に従うだけのただの処刑人。理由や憤りは、僕には無い」
 そう言って、男はボクの腕を振り放し、どこか遠くへ消えてしまった。
「リベル・・・ノクターン・・」
 
 時の経過は早かった。ビスタルクが処刑されたことをアンドレに報告すると、彼は生きていると言う。
 そうであることに越したことは無いのだが、一体何を根拠にそんなことを言うのか。
 そんなボクは、マーベルの家でアルク様の食事を作っていた。

「はっ、まずいっ!」
「どうなさいました?」
 仰天し、何かを思い出したか、アルク様はテーブルを押しのけ立ち上がる。
「僕の屋敷に、今日客がくるんだ」
 それはまあなんと・・唐突な。
「それが今回の客は一味違うんだ。オルガンテ=カルテット様が来られる」
 カルテット様、それは過去にボクが捨てられていた孤児院の創立者であり、全ての小中企業を統括する、
 お偉い社長さん。そんな方がどうしてパシグィルフ家に?
「パシグィルフ家では、ある程度の小企業を請け負っている。だから何か話でもあるんだろう」
 といっても、ウチはチョコレート工場しか請け負っていない気がするが・・・。
「こんなことしてる暇は無い。とりあえず屋敷に戻らないと」
「あら、皆さん帰るんですか?せっかく今紅茶入れたんですが」
 マーベルがポカンとした表情で立ち止まっていた。
 
 屋敷に入ると、そこには懐かしい光景が広がっていた。
「そこでじっとしてないで、お客がくるんだ、素早く部屋の整備を頼むガイ」
「承りましょう。アンドレ、あなたも手伝う」
「わっ、私ですかっ」
 渋々顔のアンドレはリビングの清掃を始めた。ボクはというと、玄関から接客室までの廊下のカーペッ  
 ト換えにてんてこまいだった。
「いらっしゃったぞー」
 リビングにいるはずのアンドレの声が、何故か二階から聞こえてきた。ちゃんと清掃はしたのだろうか。
 外を見ると、大型の馬車が停まっていた。そして中から、黒いコートを身にまとった男二人が現れ、
 こちらへと歩いて来た。そして、ドアベルが鳴り響く。
「ようこそおいでくださりました。こちらへどうぞ」
 ボクは二人のおおがらの男を先導し、接客室へと向わせる。
「おおアルク君、久しぶりだね。今回は、君にどうしても頼みたいことがあって来たんだよ」
 部屋に入って、一人の男は黒フードをとり、白いひげがチラついた老いた顔が見えてきた。
「元ガンダル騎士団の一人、リベル・ノクターンに、処刑令状が届いてある。これを刑務官に渡してほしいのだよ」
 アルク様が手にしたのは、確かにリベル・ノクターンと名が書かれた一切れの紙だった。
 しかしおかしな話だ。何故それをリベル自身が取りに来ないのか。
「なぜなら、これはリベルを殺す令状だからだ」
「自身の身は己では滅ぼせない・・・」
 アルク様はつぶやき、ボクにその紙を渡した。
「ガイ、これはお前の仕事だ」
「どうして・・・」
「ビスタルクの真実を聞いてくるんだ。それからの話は・・・ガイ、君自身で考えるんだ」
 わからない、確かにビスタルクはリベルに処刑されたはず。しかしアンドレにしてもアルク様
 にしても、どうして皆ビスタルクが生きていると断言できるのか。わからない。
「リベルは今、西にあるウォブレットの教会にいる。出来るなら、早めにしてもらいたい」
「その依頼、ボクが承ります」
 
 ウォブレットの教会までの道程は、それほど遠くは無かった。足取りを早くするほど、緊張と
 心臓の鼓動が体中に響く。この先にリベルがいる
 気づけば、ボクはウォブレット村にいた。
「ガイ、よく来てくれたね。ここは僕が生まれ育った故郷、そして、ビスタルクの生まれ故郷でもある」
 黒い人の形をしたシルエットが、ボクの前でひょうひょうと動きまわっている。
「お前とビスタルクの故郷が同じ?偶然な話だ」
「う~ん、だって、僕の名前は、リベル=ビスタルクだから」
 ビスタルク?まさか、あいつの血が流れてる男が他にもいたとは、それも、彼を殺した処刑人?
「ルマーン=ビスタルクは事実上、処刑されたらしいね」
「らしい?それはお前がその鎌で」
「違う、元々ルマーンなんてやつはこの世にいない。僕が本当のルマーン=ビスタルク改め・・・
 リベル=ビスタルク、それが僕だ」
 衝撃の事実に驚きを隠せない。
「そんな、ではどうしてルマーンなんて偽名なんか使って」
「君の追跡を一時的に振り切る為だった。君が最初に始めて僕と出会った時に、幻覚剤を渡したのも
 欺く為、レンバーナイト家の情報を入手する為に君をあんな目に合わせてしまった。すまない。
 でももう少しなんだ。レンバーナイトの真に繋がる断片が目の前にあるんだ」
「リベル、しかしそれではあまりにも自殺行為だ」
「わかっている、だから少しずつながら対立派であるパシグィルフ家に近づいた。何か手がかりが掴める
 と思ったんだ」
「ならば、直接僕に言えば良い」
 後ろから聞こえてきた声を辿ると、そこにはアルク様の姿があった。
「レンバーナイト家は僕たちの対立家。大きな助け舟は出せそうには無いが、多少力にはなれる」
 そう言って、アルク様は手にしていたリベルの処刑令状を二つに引き裂いた。
「アルク様、何故」
「元々リベル=ノクターンは存在しない。それに、この紙はガイをリベルのもとへ行かせるための
 地図にすぎない」
 空に舞った二切れの紙を見つめながら、リベルの表情は和らいだ。
「では、この僕を、パシグィルフと共に・・・?」
 リベルは何があったか、ボクに飛びついてきた。
 まずこのヘビのようにボクに絡みついた彼の腕を振り払うことからはじめようか。
 
「ガイさん、ガイさん!起きてください!」
 ボクはどこかの部屋のソファーに横になり、目を覚ますと天井には黄色に輝くシャンデリアが眼に
 反射して、覚ますにも覚ませにくかった。
「ガイさん、起きましたか」
 目の前にいたのは、全身を鎧で覆った少女がボクをじっと見つめていた。
「君は?」
「あたしはミルム=カーチェル。そしてここはセブール城。それで、今は戦争の真っ只中なわけ」
 急な話の展開に慌てふためくボクの横から出てきたのは、見覚えのある執事服をひらつかせて
 アンドレが剣を手に現れた。
「ガイさん、今現在、セブール城は攻防戦の戦中です。唐突で申し訳ないと思います。アルク様は
 今ガンダル騎士団長と作戦会議中です」
「何が、どうなってるんです」
 ボクはリベルに抱きつかれて、それからの記憶が無い。
作品名:ボクが召し使い 作家名:みらい.N