僕は君が好きだった
午前9時20分(商店街)
歩き続けて10分、俺は由希について行ったところ、なぜか商店街に出た。
「智君、ここのゲーセン行こうよ」
っと、指差したのは言葉通り、最近出来たゲームセンターだった。
中に入ると、以外にも広くゲームの種類も豊富だった。
それから二人で色々なゲームで盛り上がる。後にしたビリヤードやダーツでは、激しい
白熱戦が繰り広げられ、結果1:1で終わった。
「もうすぐお昼だね、プリクラ撮って、どこかで食べようか」
でも何だろう、彼女が凄く焦っているように思えた。でも決して顔には出さない。
何か俺に隠してることがあるんじゃないかと、疑問にさえ思う。
「さあ、入って入ってぇ」
強制的にプリクラマシンの中へ引きずり込まれる。以前、俺が展望部に入れられた
時みたいに。
「フレームを選んで・・・」
何だ、彼女は何をそんなに慌てている?
「智君」
「へ?」
「カメラ、前向いてー」
設定を終え、由希がカメラに向かって満面の笑みを浮かべる。
「ほらっ、智君も、ニィーって」
頬を左右に伸ばされる。
シャッターを切る音がして、俺の顔はようやく元に戻る。
「へへっ、撮れた撮れた。半分づつだね」
受け口から出てくる写真は、決して綺麗では無い。でも、なぜかそれが、俺にとっての
宝物になるような、そんな気がした。
午後12時10分(商店街)
「あー楽しかった。久しぶりだよ、あんな子供みたいにはしゃいだの」
「いつもは子供じゃないのか?」
冗談交じりの会話しながら、二人はファーストフード店で昼食を食べていた。
「なぁ由希、気のせいだと思うんだけど、何か俺に、隠してないか?」
「え?な、無いよ。気にしすぎじゃない?」
「なら、いいんだけど」
「ふぅ、今日は楽しかった!それじゃあ解散!本当に、楽しかったよ。ありがとう!」
由希はそのまま大きく手を振りながら、商店街の人の波に消えていった。
「また明日、展望部で、だな。それに・・・淳君、君は一体そこで何をしているのか」
さっきから非常に邪魔に目に映っていた、淳が電柱の影で俺を覗いていた。
「気づいていたなら声の一つぐらいかけろよ。不審者に思われるだろ」
「今でも十分不審者だ。で、何か用か?」
「いや、お二人さん、なんかいい感じだなぁって」
「もうそろそろいい加減殴るぞ」
午後11時(自宅・寝室)
あれから俺は、家に帰るたび、送られてきた由希からのメールから話が弾み、夜遅く
までメール交換をしていた。
「もう寝るから、また明後日、展望部でねっと。よし、寝るか」
最後のメールを送り、返事が無いことを確認して就寝した。
(学校とかで眠くなると、本当に寝たくなるけど、家で眠くなっても、その場では
寝たくなくなるよな。あれはどうも理解出来ない。)
3月15日月曜日午前7時40分(通学路)
「智兄はさ、淳君みたいにゲームしたりしないの?」
「俺はあまりしないかな。まぁでも全くしないってわけでもないけど」
いつもと変わらない朝、しずくと二人で登校中。
「来年高校生になったら、智兄と同じクラスがいいなぁ」
「しずく、そのとき俺は2年生だ」
階段を登って、西校の校門前でしずくと別れ、さあ門を通ろうとした時だった。
「そこの男子生徒!どけーっ!!」
うん、すごーく失礼な言葉をぶつけられた。ふっと後ろを振り向くと、全速力で走る
女子生徒が見えた。どかなかったらどうなるんだろう。
「うわっ、どけどけっ!」
案の定、彼女はそのまま俺と接触し、ぶつかった。
「ッテテ、あんたねぇ、どきなさいって言ったでしょう!」
「知るかっ!いきなりそんな風に言われた俺の気にもなってみろ!」
しばらく二人のにらみ合いが続き、その緊張感をチャイムが叩き割った。
「ふん、命拾いしたわね」
「どっちが」
今日の朝はイライラする事態で始まり、腹が立つ。
「智樹よぉ、見てたぜ今の。遠くから見てると、ばかばかしかったぞ」
午後1時30分(学校・昼休み)
「あれ、関島さんだ」
関島が副会長の東郷と言い合いをしている。何を話しているのだろう。
「智樹、ほれ、珍しいパン売ってたぞ。食うか?」
「あ、ああ」
気になりつつも、俺はその場を後にして、庭のベンチに座る。
「うりゃ」
「のわっと!」
両脇腹を掴まれ、ベンチから尻を上げて飛び上がる。
「誰だよっ」
「ウチだよウチ。今朝ぶつかったでしょ」
紛れも無い、今朝俺にもう突進した末、自分で倒れて俺にクレームつけてきたやつだ。
「あの時は悪かったわ、なんだか気が立ってたみたい。私は愛沢未来(あいざわ みらい)今後もよろしく」
「ああ、俺は市ノ瀬智樹」
「おお俺!俺、志野淳といいま・・・す」
彼女には淳の声が届いておらず、すたすたとどこかへ行ってしまった。
「なぁ智樹、それにしてもどうするんだよ、展望部が無くなっちまったし、次の部活
考えたほうがいいぜ」
「おい淳、今何つった?」
「ん?だから、展望部が無くなったって、聞いてないのか?」
寒気がしてきた。俺は急いで由希を探した。
「由希・・・展望部が無くなるなんて聞いてねぇよ!」
体育館倉庫に行く。しかし、部室の中の物は全て人の手により外に出されていた。
職員室に行き、教員に聞く。
「すいません、展望部はどうなってるんですか?」
「展望部?ああ、あの部員が一人もいない部活か、申請するには二人以上の部員が必要
だってのに、加藤のやつ、それを無視して公式でもない不明な部活動を作っちまって。
ったく、本当馬鹿だな、あいつは、展望部なんて、誰が行くんだ」
俺は怒りを隠せず、大声を出してしまった。
「展望部の何を知ってるんですか!由希の思いも知らずによくそんなこと言えますね!
由希は今どこですか!」
「由希は謹慎処分を受けてもらってる。以前あいつ、小火を起こしたみたいじゃないか」
あの時だ、倉庫のスプリンクラーが発動してしまって・・・その罰を、由希が?
「何だ、お前展望部員なのか?」
ということは、俺の名前が、申請書に書かれていない?
俺は急いで学校を出て、体育館裏に向かった。
「由希!」
奥ですすり泣きが聞こえる。
「由希・・・?」
「智・・君?」
そこには、階段の下で一人泣きじゃくる由希の姿があった。
「ごめん・・ヒック・・・展望部・・無くなっちゃったね・・・。ごめんね・・ごめんね・・・」
「何で、申請書に俺の名前を書いたんじゃ・・・」
「智君が、最初展望部には入らないって言ってたから、勝手に人の名前を使っちゃ・・・
駄目だからって・・・・。もう申請期限は過ぎていて・・・こうなることはわかって
たの・・でも・・・そのこと智君に言うと・・ヒック・・・悲しむと思って・・」
じゃあ、由希は、もう既に知っていたのか?知らないのは・・・俺だけか?
「だから、この前由希は、解散だって・・・」
「うん・・・展望部・・無くなっちゃった・・・あんなに楽しかったのに・・・智君と
一緒に、部活したかったのに・・」