小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

僕は君が好きだった

INDEX|2ページ/7ページ|

次のページ前のページ
 

 どうしたか、しずくは俺の裾を指先で軽く引きとめ、黙っている。
「え?あ、ごめん、何でも無いよ。へへっ」
「そう・・か」
 何だったんだろう。
 そのまま俺は家に帰り、しずくに「また明日」と、手を振った。
 さて、明日からまた授業が始まる。それと、新たに展望部という課題が俺に課せられた。
「寝るか」
 
  
3月5日金曜日午前7時30分(自宅・寝室)

 寝覚めは良好、隣のしずくがわざわざ俺のベッドにヘッドダイブする必要も無く、
 ぱちくりと目を開いて、大きなあくびと共にカーテンを開く。驚いた小鳥たちが綺麗な
 放物線を描いた。
「智にーい、起きてるーっ?」
 朝から大きな声をはりあげて、俺の部屋の窓に小枝をぶつけてくるのは、誰あろう、
 しずくだ。どれだけ寝坊助だと思われているのだろう。まぁ、こうして心配してくれる
 人がいることは、喜ばしいことだろう。
「おはよう智兄、ささ、行こう!」
 坂を下り、商店街の横道を歩くと、淳の後姿が見えた。
「おはよー淳君」
「うっす、お二人さん。智樹、全くうらやましいぞ。朝起きて玄関出れば、幼馴染の
 女子が立っててくれるなんてよぉ」
 淳は目を細めて、俺としずくを眺める。
 長い階段を上がり、見えてくるのは俺の通う西校だ。まだ不慣れなせいか、淳がいな
 いとちゃんと学校につけるか解らなく、少し不安もある。
しずくと別れ、俺は淳と同じクラスへ向かった。
「おい、今日は確か部活動説明会があるよな。まだ決めてねぇよ」
「まぁ、俺はもう既に部活に入部してるから、あせる必要はないけどな」
 本意で入ったわけではないが・・・。
       
午後1時30分(学校・クラス)

「ふぃーっ、やっと昼休みでぇ。智樹、食堂行こうぜ」
 食堂に向かう廊下で、なにやらいざこざが起きているようだ。人が大勢いて、先に
 進めない。こういうのが迷惑なんだよな。
「あ?何が起きてるんだ、俺たちは食堂に行きてぇんだよ」
 淳が人の波をかき分けて前進していると、やがてそのいざこざの中心核にたどり着く。
「君か?僕達の部室を荒らしたのは」
「・・・・」
 一人の男子生徒と、黙ってその男子の目をにらみ続ける女子生徒の姿があった。
 どうやらこの二人が問題らしい。
「何か言ったらどうだっ」
 ものすごいけんまくで男子生徒は女子生徒を一方的に責めている。
「おいおい、もうそこら辺にして・・・」
「・・・私に付きまとうあなたが悪い・・もう・・・私にかまわないで・・」
 女子はボソッとつぶやき、男子生徒が怯えたように後ずさりしてどこかへ行って
 しまった。
「あの、大丈夫?」
 と、俺がその娘に聞くが、彼女は黙ったままその場を後にした。
 それと同時に大勢の生徒達が動き出し、それのほとんどが食堂へ向かっていった。
「まずい!出遅れるな智樹、定食みんな食われちまうぞ」
 気を取り直し、俺と淳は食堂へ向かった。それでも何だかさっきの女子生徒のことが
 気になって仕方なかった昼休みだった。

        午後3時(学校・クラス)

「・・・・」
 先ほどから淳の様子がおかしい。なんだか、急にげっそりしたかのようだ。
「どうした?変なもんでも食ったか?」
「そんな変なもんが入ってそうな大層なもん食ってないからこうなったんだろ!お前が
 ノロノロしてたから定食食えなかったじゃねぇか。はぁ、何だよ、今日の昼飯、
 メロンパンだぜ?しかもメロンの味も何も無い、ただのコッペパンみたいなの一個!」
「そんなの仕方ないさもう終わったことなんだし」
 淳が更にテンションを低くする。
「はぁ、出たよ、その『仕方ない』お前の十八番だよな。たまにそんなお前の性格が
 うらやましく思えるぜ」
 何のことやらさっぱりだ。
「それより智樹、今日の放課後、あれ行くのかよ、あれ、なんつったっけ」
「展望部」
「そう、それ。正体不明の謎の部活動。まあ、お前が行きたいのなら、別に引きとめや
 しねぇけどよ」
 正直俺は展望部なんかに入部したくなかった。第一に俺は部活自体入る気は無かった
 んだ。なのに由希部長が無理矢理俺を展望部に引きずり込んだんだ。
「まぁ、試しに今日一度行ってみるさ」
 
           午後4時20分(学校内・放課後)
 
 ついにこの時が来た。俺はクラスを出て、そのまま体育館倉庫へ向かった。
 扉を開く。
「失礼しまぁす・・」
「わーっ」
 扉を開けた瞬間、由希が俺に抱きついてきた。
「わわわっ、どどっ、どうしたんですか!」
 もう何がなんだかわからない。
「来てくれたんだーっ、昨日の様子だと、そのまま帰っちゃうのかと思ってたよー」
「どれだけ信用無いんですかっ!いいですよ?このまま帰っても」
「だめだめだめっ!もう一度言う!だめ!」
 どれだけだめなんだ。
「智君は唯一の部員なんだから、とりあえず、まず今回の課題をやって、どんな部活かを
 身をもって知ってほしい!」
 とは言っても、天体観測なんて出来る時間じゃないし、一体何をするのだろう。
「今日は図書室で星とは何かを智君に教えてあげよう!ついてきて」
 首を腕で締め付けられながらも、何とか図書室にたどり着く。生きてる・・よな?
「はいこれ」
 手渡されたのは、数え切れないほどの分厚い書物だった。どっさりと机に置き、由希は
 一冊目の本を広げた。
「さぁーて、今日は返さないわよー」
「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ、全く、由希さんは、何で展望部なんて作った
 んですか?部活はいっぱいあったはずだけど」
 由希は急に黙って、窓から空を見上げた。
「智君、流れ星って、綺麗だと思う?」
「へ?」
 唐突な質問で驚いた。流れ星は、単純に考えれば綺麗だとは思う。
「だよね、でもその綺麗な流れ星は、一体どこへ行ってしまうのかな?流れ星はね、
 死んだ星が、最後に見せる精一杯の輝きだと思うの。でも皆は流れ星を見て、願い事
 を済ませたら、はい、終わり。それって、何か違うような気がするんだ」
 まぁ、確かにそこまで深く考えたことは無かったな。でも、流れ星がその後どこに
 行ってしまうのかなんて、知ってどうこうする事でもないんじゃ?
「星は、生きてるっていうことを、皆に知ってもらいたい。展望部は、そんなことを
 一心に突き進んでいく部活動なの。智君にも、そのことを知ってもらいたくて」
 なんだか、今までこの展望部に入ることに否定感を抱いていた自分が、ばかばかしく
 思えてくる。
「由希さん、ごめん、俺、何か勘違いしてたよ。そんな思いがあったなんてさ」
「ううん、別に良いよ。だって、いきなり智君を連れ込んだのは私のせいだし。
 こんがらがるのも仕方ないよ」
 『仕方ない』か。
「さぁ、気を取り直して、勉強勉強!」

          午後6時30分(学校・校門前)

 それから、俺は2時間余り、由希の星や宇宙に関する知識を脳に叩き込まれた。
 帰り際に手渡された、『織姫と彦星』の本を今日の夜読むことにしよう。
「智兄ーっ」
 まさかとは思ったが、しずくの声が校門のほうから聞こえてきた。
「しずく?まさかずっとここで待ってたのか?」
作品名:僕は君が好きだった 作家名:みらい.N