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僕は君が好きだった

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僕は君が好きだった
       



















          第一話 出会い

            3月4日木曜日午前7時40分
  初めての高校生活、俺、市ノ瀬智樹(いちのせともき)は、幼馴染の大野しずくと
 初登校をしていた。
「おい、智樹」
 家から坂を下ったところで、友人の志野淳(しのじゅん)が待っていた。
「おっす、しずくもこのまま中学か?」
「うん、二人とも、今日から高校生さんだよね、頑張ってね」
 励ましをもらいながら、しずくに手を振り淳と二人で学校に向かった。
「智樹、今日はたしか、高校最初だから、部活広告でごった返すと思うから、入学式
 終わったらすぐ体育館出たほうがいいぜ」
「部活?もうそんな話が始まるのか?えらくせっかちな学校なんだな。ま、俺は即
 帰宅部に入部するぜ」
 などとふざけた話をしていると、入学式が始まる直前なせいか、慌ただしい空気が
 漂っていた。クラス拝見がてらに廊下を歩いていると、誰かが落としたのだろうか、
角あたりの床に大量に紙の残骸が残っていた。どれも一枚一枚違う用紙のようで、
大方、乱暴に部活動委員に手渡されたのだろう。誰も拾おうとしないのが
残念な話だ。
「やれやれ、淳、手伝ってくれ」
「はぁ?俺が拾うのかよ、相当な数だぜ」
 そうは言っても、このまま放っておいても誰も片付けないだろう。皆急がしそうだし。
 せっせと半径約5メートルの範囲に散らばった入部用紙をまとめて束にしていると、
 奥から一人の女子生徒が走ってこちらへと向かってきた。
「あっ、それっ!」
 どれだろう。
「ここに散らばっていた入部用紙、片付けてくれたのあなた?」
「え?あ、うん、まあ一応」
 突然で一瞬と惑ったが、笑顔でいる女子生徒を目の前に、我に戻った。
「良かったぁ、じゃあ私急いでるから、その用紙、体育館の倉庫に置いといてー。
 そんでもってありがとう」
 女子生徒は早足でどこかへ行ってしまった。
「ちぇっ、何だよ。せっかく集めておいたのに、今度は体育館の倉庫かよ。やめやめ。
 智樹、俺たちも早く入学式場に行こうぜ」
「入学式は、体育館だろ?ならついでにこれも倉庫に置いていけるよ」
「智樹・・・」
 淳ががくりと首を下に向けて、ゆっくりと俺の顔を覗き込んだ。
「お前本当にお人よしだよな。そんな誰のかも知らない物をわざわざ置いてく必要はねぇ」
「まぁ、確かにお人よしだけど、頼まれたのは仕方ないし、黙ってここに放置しておくの
もかわいそうだろ、良いよ、俺が持ってく」
呆れる淳の顔を脳裏に浮かべながら、俺は体育館の倉庫へ向かった。
登校初日からこんなことがあるなんてな、お先、どうなるのか、この学校は実に興味深
い。
 倉庫の扉を開くと、そこには天体望遠鏡やら地球儀などと、当然体育には不釣合いな
 道具が置かれてあった。そして真ん中には大きな長テーブルも・・・。
「あっ!さっきの男子生徒B君!」
 A君もいたのだろうか。
「さっきはありがとうね、わざわざ持ってきてくれたの」
「まあ、頼まれたことだし、聞き流すわけにもいけないでしょ」
 初対面のはずなのに、どこか親近感があるこの女子生徒は、他人に思えなかった。
「まぁまぁ、座りなよ」
 と、言われるがままに俺はパイプ椅子に腰掛ける。
「君、名前は?」
 いきなりな質問だった。
「い、市ノ瀬智樹・・・」
「じゃあ、智君でいいね。君は今日から、我が部の入部を許可した!」
 我が部?入部?待て待て、話が早すぎて理解が追いつかない。
「紹介が遅れました。私は加藤由希。この展望部の部長であり、唯一の部員であります!」
「ちっ、ちょっと待った!それって、もしかして、新たに部を作ったってこと?」
 俺の質問にキョトンとする由希。
「勿論、この展望部は私が作って、申請もちゃんとしたのよ。だ・か・ら、ここは公式の
 部活部ってこと」
 申請さえすれば、たとえどんな目的であれ、部は作れるとは聞いたことがある。でも
 確か、それには部員が2人以上必要だった気が・・・。
「申請書にあなたの名前を記入しておいたわ、はいこれ、あなたの名札」
「なっ、何で俺の名札持ってるんだ」
「気づかなかった?さっきすれ違ったとき、あなたの名札頂いたわ」
 そんなの無責任だ。人の名前を勝手に部活要因に使って。
「さっき慌ててた理由は、俺の名前を書いて提出するためかっ!」
「ん?何の話かな?」
 目が泳いでいる。図星だな。
「とりあえず、俺はどこの部にも入る気は無いよ。展望部なんてどこにも書いてなかった
 し、どんなことをするのかもわからない部は、なおさらだ」
「何をするのかって?勿論、その名の通り、新たな星を探す調査をしたり、流れ星を
 見つけてそれを報告したりね。あ、それは無論私へ報告。要は、天体観測だね」
 随分とシンプルな部活だ。しかしまぁ、俺にはそんなことする暇もないんだ。
 大体、天体なんて興味ないし、したいと思わない。
「悪いけど、部活には入らないよ。申請も取りやめてもらう」
 それを聞いて、由希は飛び上がり、俺の脚にしがみついてきた。
「ぎゃあああああ!」
 何を叫ぶと思えば、何て大声出しやがる。
「もっと叫んであげようか?誰かがここへ駆けつければ、智君、学園生活台無しになるよ」
 なっ、何て悪魔がここにいる!あらぬ事実を学校中に吹っかけるつもりかっ!
「わかったわかった!入る!入ります!」
 言ってしまった。
「ふふふん、入部おめでとー!」
 さっきの表情と打って変わって、今度はかなりのハッピーフェイスでいる。喜怒哀楽
 が激しい、ということかな。
「じゃあ早速、明日の放課後から始めるわね。ここに集合!あ、それと、一応これでも私
 部長だから、私語は謹んで、敬語で話すこと」
 へいへいと、心で投げやりなセリフをはく俺であった。
 体育館に戻ると、人が溢れかえっていた。
「智樹、探したぞ。今までどこにいた?」
「さぁ、地獄、かね」
 
        午後4時20分(学校内・放課後)
 
 入学式が終わり、すっかり夕暮れになった。校門に行くと、しずくが立っていた。
 まさか、待っていたのか?
「あ、智兄。おかえり、いっしょに帰ろう」
 淳を横目に、俺はしずくと一緒に下校する。
「しずく、どうだった?新しい学年は」
「う~ん、なんかちょっと残念だったかな。一年二年と一緒だった友達とクラスばらばら
 になっちゃったし」
「まぁ、すぐ慣れるさ」
「しずくの性格なら、皆珍しがって寄ってくるんじゃないか?ははっ」
「もぉ、淳君はいつもしずくを馬鹿にする」
 しずくの頬が大きく膨らむ。
「違う、馬鹿にはしてないぜ、からかってんだ」
「おんなじだよぉ。智兄たちは、どうだったの?」
 今日一日のことを聞かれると、真っ先に思い浮かぶのが由希の展望部に入部したこと
 だった。
「実は、展望部・・・に、入部した・・」
「はぁ?展望部?なんだそりゃ、聞いたことねぇぞ。なんか怪しそうだな」
 ああ、大いに怪しい宗教団体のようなものさ。
 家に着くと、しずくだけが傍にいた。しずくの家なら隣なのだが。
「あのね・・智兄・・・」
作品名:僕は君が好きだった 作家名:みらい.N