若返りの泉 TWENTY
3 へびのぬけがら
母の故郷は福知山駅から20分ほどバスに乗り、未舗装の道を30分かそこら歩いた山の中にある。
山を切り崩して平らにしたのだろう、石垣で固めた上部に、家や蔵、牛小舎などが建っていた。
井戸は2か所あり、山の斜面をくりぬき、大きな石で囲んだ洞のようになっている方の井戸は、いつもひんやりとしていて冷蔵庫の役目をしていた。もうひとつの井戸は、洗面や、洗い物をするのに使われていた。
煮炊きはかまどでする。火吹き棒で火を強くするのを手伝ったが、難しくてできない。「早よして、早よして」とせかされ、顔を真っ赤にして吹いていた。
五右衛門風呂は、板を沈めることができず「アチッ、アチチ」と言いながら、苦労して入った。体重が軽いのでバランスが取れないのだ。
トイレは牛小舎の横にあるので、夜にトイレに行く時は、誰かに付き添ってもらわないと行けなかった。正面にある山が、黒いシルエットとなって不気味に感じられたから。
それでもたくさんの星が眺められたし、カエルの鳴き声や虫の音がにぎやかにこだましていた。
カブトムシやクワガタを捕ってきて相撲をとらせたり、小川で魚などを追いかけて遊んだ。
石垣にはヘビが住み着いていて、抜け殻の小さなかけらを見つけると財布に入れた。財布にヘビの抜け殻を入れておくとお金がよくたまる、という。
なるほど、私の財布には10円玉がいっぱい入っていた。
ある夏休み、まるまるそのままのヘビの抜け殻を石垣に見つけて、ていねいにとり上げ、家まで持ち帰った。
宝物の箱にしまっておいた。
中学卒業が間近になると、クラスにサイン帳を回したりする。
ある男の子が、宝物や、と言って何かをくれた。何だったかは覚えていないのだが。
私も宝物をお返しにあげた。
今になって悔やまれる。
あんな大きなヘビの抜け殻を金庫に入れておいたなら、今頃大金(銅貨)持ちになっていたに違いない。
作品名:若返りの泉 TWENTY 作家名:健忘真実