若返りの泉 TWENTY
15 琵琶湖一周サイクルマラソン
『ビーバー号』と名付けたロード用自転車で、第1回びわ湖一周サイクルマラソン・約180キロメートルを走ったのは、結婚間もないつれあいに誘われてのことである。
その年の春、神戸から淡路島・徳島・香川・小豆島、そして大阪港へとまわったのが、初めてのツーリングだ。
正直いうと、自転車に乗ること自体、得意でない。片手運転も二人乗りもできない。強引に誘われて、参加した。
大津までは車で。各自整備点検を受けた後、順次出発していく。自転車の種類は自由で、ママチャリの人もいた。
なんのことはない、彼は上位入賞をねらって、1人で出発していった。仕方なく独りでスタート。山用のヘルメットをかぶって。
どのコースを走るかは決まっていないが、右手に琵琶湖を眺めながら、ペダルをこいだ。湖北はアップダウンがきつい、が景色はすばらしい。景色をチラと見てはトンネルに入り、というのを2・3回。立ち止まって見るゆとりはない。
ひとりぼっちなのだから。
木之本あたりから、行けども行けども距離がかせげない。長浜バイパスをぐるっと回っていただけと分かって、泣きそうになった。彼のアドバイスに従って着用している山用ヘルメットの重さが、首や肩にこたえてきた。
休憩もかねて、彦根の喫茶店でエネルギーを補給。
正解!
気力を取り戻してペダルをこぐ。が、黄昏時ともなると心細くなり、ゴールはまだかと涙があふれてきた。腕にランプを装着して、車の多い国道を延々とペダルをこぐしかない。
こいで、こいで、こいで・・・・・・
彼の出迎えを受けて一緒に、こいで、こいで、こいで・・・
そして
【カシッ】
タイムが押された。
8時間50分1秒64
びわ湖一周サイクルマラソンは危険につき、翌年の大会で終わった。
作品名:若返りの泉 TWENTY 作家名:健忘真実