若返りの泉 TWENTY
13 蜂 の 子
Mさんとは、しばしば山行を共にすることがあった。食べられる植物を教えてもらったり、鳥の鳴き声を聞いて名前を教わったりした。
マムシを捕まえて、まむし酒を造っているという。そのコツまで教わったが、実行する気はない。
むろん、登山技術の研究に熱心で、向上心の高い人である。
8月、国体近畿大会が奈良県曽爾高原周辺で行われた時のこと。
登攀会場は、小太郎岩という所であった。
競技を終え片付けがなされている時、審判員として参加していたMさんが、地蜂の巣を見つけて、袋をかぶせて掘り出した。
その夜は全員近くの学校に泊まり、翌日も競技があった。
学校へ向かうバスの中、Mさんから手渡された直径15センチメートルほどの蜂の巣。手ほどきを受けて、1部屋ごとにいる幼虫を、巣を壊しながら取り出していった。中には成虫になりかけのものもいて、飛び立たないか、刺されないかとヒヤヒヤしながら取り出した。かなりの数になった。
学校の校庭にテントを張り、取り出した蜂の子をコッフェルに入れて炒めた。
長野県では名産品として売られているらしいが、蜂の子を見るのも食べるのも初めてである。
卵焼きのようなにおいが漂い、躊躇しながらも食べてみると、なんというおいしさ。噛むとジュウシーでほんのり甘く、香ばしさが鼻腔をくすぐり、手が次のをつまんでいた。
成虫になりかけの蜂はコリコリとしていて歯あたりがよい。
気持ちが悪い、と言っていた人も口にしていた。
機会があれば、同じようにして食べたいものだが・・・
作品名:若返りの泉 TWENTY 作家名:健忘真実