若返りの泉 TWENTY
11 犬 の 缶 詰
冬山に行きたくて山岳会に入った。就職して3年目である。
毎週末は近郊の岩場へ出かけ、ロッククライミングに励んだ。たいていは、前夜から行った。
仲間たちは車座になり、持参した飲み物や食べ物を分け合って、遅くまでつまらない話に時間をつぶしたものだ。
連休には遠出をした。
11月、神戸から小豆島へ向かう船に乗った。船のデッキに横になって、夜空を眺めながらシュラフにくるまって眠った。
小豆島には拇(おやゆび)岳という面白い岩場がある。その裾には、山ヤのためにではないだろうが、宿泊できるお堂があり、そこで1泊した。
夜は、いつものように車座になって、コップに入れた飲み物や食べ物をまわしあった。まわってきた飲み物を少し飲み、食べ物を少しつまみ、そしてボソボソと話をする。
Yさんが、持参した缶詰を開けてまわした。
みんなはうつむき加減で、まわってきた缶詰を少し食べては隣に渡す。
半ばにいた私はそれを受け取ると、何を食べているのかと思いラベルを見た。
犬の絵が描いてある。
犬の肉?
よくよく見てみると、犬のための缶詰だった。
「犬のえさやで」
と言って、缶詰に描かれている犬の絵を見せるために缶を前に突き出して、見せた。
「どおりで味がないわけや」
「変やとは思ったんやけど」
Yさんいわく、
「普通の缶詰のとこにあったさかいに、分かれへんかったんや。安かったから」
誰からも不調の声は聞かなかった。
作品名:若返りの泉 TWENTY 作家名:健忘真実