君ト描ク青空ナ未来 --完結--
8
車で走ること10分と少し。
地下の駐車場へと車がはいっていった。
「着きました」
言われて車を降りる。地下のがらんとした空間。おそらく他には誰もいない広い駐車場。
慣れない環境についきょろきょろとあたりを見回してしまう。
「こっちですよ」
そんな空流を微笑ましく思いながら、エレベーターの方へと誘導した。
エレベーターに乗って、上へ上へとあがる。
最上階に近い階でエレベーターが止まったのがわかった。
そして降りてみると、ドアが一つしかない。
そして誠司はその一つのドアへ向かってまっすぐに歩いていく。
「・・これ、マンションっていうのかな・・・」
思わずそう呟かずには入られない。
「さ、どうぞ」
先に中に入ると自動的に電気がついた。
・・・玄関っ!?
マンションの玄関って・・広くても1畳くらいだと思ってた。
どこに靴を脱いでいいんだかすらわからない。
土間であるべきところは白い光沢のある石で作られている。
「どうかしましたか?」
そう聞いてくる人には、いいえ、としか言えない。
どこで靴をぬいでいいのかわからないなんて言える訳もない。
幸い、玄関に入ってからは誠司が先に立ってくれた。
誠司のするとおりに真似て玄関をあがる。
「おじゃま、します・・・」
消え入りそうな声でそう言って中へ入った。
リビングへのドアが開かれた。
玄関から想像されるとおりの光景。
生活感のない環境。
マンションのチラシの写真のような部屋。
広いリビングには小さなテーブルセットとソファのセットがある。
どれも上品な色合いで統一されていた。
「好きなところに座っていてください。なにか飲み物でももってきます」
上着とネクタイをソファの背にかけて、キッチンへ。
「あ、手伝います」
その後をあわてて追った。
「そうですね、お願いします」
紅茶をいれることになって、お茶の葉やポットの場所、食器の類はどこにあるのかまでをしっかり教わりながら紅茶を入れた。
それを慎重にソファのあるローテーブルのそばまで運んで、やっと二人とも腰を落ち着けた。
茶葉の様子を見ながら細工の入ったカップにお茶を注ぐ。
しっかりと紅茶の香りのするお茶を味わいながら誠司がなつかしむようにポツリといった。
「すごく、昔のことのようですね」
場所は違えどもこうやって二人でお茶を飲んでいた日が。
「そうですね。僕も、そう思います」
実際にはそんなに前のことではないのに。
伊豆の別荘を思い出すと、同じ季節の間の出来事はもう一年も前のことのよう。
「誠司さんも、加川さんも・・・本当に、ごめんなさい」
黙って家を出てしまったこと。
きっと優しいこの人たちはとても心配したに違いない。
「ええ、加川も心配していました。でも、もういいんです。あなたが無事に戻ってきてくれたので」
もう心配しなくていいのならば、それが一番。
「私と離れている間、どんな生活をしていたのか聞かせてください」
「はい」
「でも、今日ではなく」
「え?」
「明日にでも。今日はもう遅い時間ですから休んでください」
頭をくしゃりとやって、空流のカップがあいたことを確認すると誠司が立ち上がった。
「まずはシャワーを浴びて。こっちです」
先に立って浴室へと空流を誘導する。
何か言おうとして言葉を捜す空流に何をいう間も与えず、バスルームへと押し込んだ。
作品名:君ト描ク青空ナ未来 --完結-- 作家名:律姫 -ritsuki-