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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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「なにもかも・・・鷹島さんのせいで・・・」
しばらく言葉に詰まった後、樹が搾り出すように言った。
「それは逆恨みだと・・」
「でも、俺にとっては・・・」
たとえ両親の思いが逆恨みであろうとも、彼らの苛立ちを受け止めてこなければいけなかったのはまだ幼かった樹。
「わかってる。ずっと、辛い思いをお前だけにさせてきた」
匠が樹の頭へと手を置いた。
「俺は、ずっと見て見ぬふりを続けてた」
その手を樹は振り払わなかった。

「空流」
誠司が呼びかけて、二人は病室の外へ出た。
あとは兄弟の問題だ。
病院の待合室へと戻って、再び肩を並べて座った。
「何がどうなっているのか・・・全然わかりませんが・・・」
それを聞いてあわてて説明しようとする空流の口を人差し指で押さえる。
今はまだ、と。
「とりあえず、あなたが無事で本当によかった」
そう言って抱きしめた。
体温を感じて、やっと安心できる。
「・・・心配、かけました。すみませんでした」
誠司の肩に頭を預けた。
「ひどいことはされませんでしたか?」
「はい」
「ちゃんと食べていましたか?」
「はい」
「ちゃんと眠りましたか?」
「眠ってばっかりでした」
空流の答えに誠司が微笑んだのがわかった。
「もう心配かけないでください」
「・・・はい」
頷いて、手が離された。
「帰りましょうか」
頷いて立ち上がった。
「伊豆の別荘ではなく、東京の私のマンションですが」
空流が何かいう間を与えずに歩き出した。

「待って、ください・・・」
去った方角から声が聞こえた。
まだその声には迷いが多く含まれている。
「・・・っ・・」
呼びとめた本人も何を言っていいのかわからないままに、言葉に詰まる。
「・・・・悪かった・・・と・・・思ってる」
消え入るような声でそう言った。
それはもちろん空流にむけての言葉。

「でも、助けてもらったの僕ですから」
空流が笑みをつくってそう言った。
「そんなのっ・・・」
「・・・全部演技だったわけじゃないって信じてます」
空流の言葉に樹が押し黙った。
「・・・別にどうおもっててもいいけど」
「それに、樹さんも僕と同じだってことがわかりました」
「・・なにそれ」
「誠司さんのことが大好きなんです」
「何いってんの?」
樹が顔を背けた。
空流も樹も、目を大きくして驚いている誠司には気付かない。
「ずっと誠司さんをお兄さんだと思ってるんですよね」
「意味わかんない」
激しい口調で空流の言葉を差し止める態度がそれが事実である事をあらわしていた。

ずっと、自分のことを見て欲しくてたまらなかったけれどもそれは敵わない。
そこに、現れた一人の青年。その人は理想的な兄。
願わくばずっと兄でいてほしいと願った。
けれども、それも泡沫の夢。
商売上の付き合いがなくなってからは、いっさい見向きもされなくなった。

悔しかった。
それは多分、どうしようもなく好きだから。
本物の兄のことも、仮初であったけれども兄でいてくれた青年が。

「・・・ほんと、意味わかんない」

その場に樹がうずくまる。
駆け寄ろうとしたけれども誠司に止められた。
樹の後ろから、本物の兄が歩み寄ってきたから。

匠に一礼をすると二人は病院の外へと出た。