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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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シャワーの流れる音がバスルームから響いてくる。

なんだか疲れが一気に出てきた気がした。
一杯だけ、そう思ってワインの栓を抜く。
グラス半分だけワインを注いで飲み始めるといつの間にか意識が遠くなる。

酒には強いはずなのに。


「・・・さん・・誠司さん!」
自分を呼ぶ声にそっと目を開ける。
風呂上り姿で申し訳なさそうな表情を入り混ぜながら空流が立っていた。
「起こしてごめんなさい。でもこんなところで寝ちゃったら風邪ひきます」
身体を起こすとコップに入った水が差し出された。
「酔っちゃったんですか?」
コップを受け取って水を口に含む。
冷たい水が身体に染み込む感覚が寝起きのだるさを払っていった。
「ありがとうございます。そんなに気を使わなくていいのに」
そう言うけれども、当の本人は笑って首を振るだけ。
「誠司さんのためになら、なんでもしたいんです」
僕はあなたになにができますか。

その問いに対しての返事は意外とあっさりと誠司の口から放たれた。

「では、ここにいてください」
「え?あ、はい・・」
戸惑ったような返事を返してソファの隣に腰掛ける。
生じた多少の勘違いに、勿論それもうれしいけれど、と誠司は苦笑い。
「ここにいて、ここから高校に通って、普通の学生生活を送ってください」
「え?」
「ダメですか?」
「でも・・・それは・・・」
「それは?」
しばらく言葉に迷ってから、空流が答えを出す。
「誠司さんのために僕がするっていうことではない気がします」
「さすが。誤魔化されてはくれないですね」
そういって微笑んだ。
「誰のためにという話は別にして、本当にそうして欲しいと言ったらそうしてくれますか?」
嫌だなんて言われないだろうとわかりながら聞いている聞き方。
「もしそうできたら、すごくいいなとは思います」
「もし、ではなく本当にそうしてください」
「でも・・・」
「でも?」
問い返してもしばらく言葉は返ってこない。
けれども大体言いたいことくらいはわかる。こういうときにはきっとそこまでしてもらうのは申し訳ない、という言葉がでてくるのだと思う。
そんなことを考えていたのに、返ってきた言葉はあまりに予想はずれだった。
「でも、もう高校にいくつもりはありません」
とっさに返す言葉は何も見つからないまま空流が続けて話す。
「正確にはいくつもりがないってわけじゃないんです・・・働いてお金を貯めて、そしたら定時制の高校に行ってみようかななんて思ってます。働きながらでもいけますし、もともと勉強は嫌いじゃないんです」
「嫌いじゃないのなら、全日制の高校に今通うのでも良いのではないですか?」
「でももう1学期が全部欠席です、普通の人からは一年遅れちゃいますし・・。それにこれからは自分で生きていかないといけないから働かないと学費だって払えなくなります」
現実的に自分の将来を見ている空流をみると、安心すると同時に少しだけ寂しくなる。
もっと甘えていいのに。もっと頼って欲しいのに。
でもきっと厳しい生い立ちを持っているこの子には難しいだろうとも思う。
「もし、今空流が言ったとおりになったら、私は何も必要ないですね」
きっと意地の悪い言い方をしているのだろう。
けれども、その意地悪にも毅然と空流は言葉を返してきた。
「いいえ。誠司さんがそばにいてくれるっていうだけですごく安心します」
「それなら、ここに住んで、私のそばにいてください」
少しだけ酔ったのかもしれない。
きっと今、自分の目は驚くほどに真剣だろうと思う。
そんなことも隠せないくらいには酔っているのかもしれない。
「それは・・・」
「高校のことは、後にして。今はそのことについてだけ。私はあなたに傍にいてほしい」
しばらくお互いに言葉を発さなかった。
空流が何を考えているのかは、よくわからない。
ただ、一言だけ肯定の返事を返してくれることだけを望んで、その数秒間を待ち続けた。

「本当に、そうしてもいいのなら・・・そうさせてください」
その答えを聞いた瞬間に空流のことを抱きしめた。
大学の合格発表を見て、自分の番号があるのを確認したときのように気が抜けた。
「そういってくれてよかった・・・もういなくなったりしないでくれますね」
その問いにも肯定の返事が呟かれた。