小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

君ト描ク青空ナ未来 --完結--

INDEX|92ページ/159ページ|

次のページ前のページ
 



病院の待合室。
時間が時間だけにもう誰もいない。

診察室には仲原兄弟と樹が入っていった。
待合室では空流と誠司から少し距離を置いて匠が座っている。
自分が怪我をしているわけでもないだろうにその顔は苦痛に歪んでいた。

空流が席を立って樹の前に立つ。

「あの、匠、さん?」
声をかけるとゆっくりと匠の顔が上がる。
「どうして・・・」
そこまで言って口ごもる。
聞きたいことは色々とある。けれどもそれが言葉になって上手く出てこない。
空流が言葉を発する前に、匠が先手を打った。
「あなた方には迷惑をかけることになりました。今更こんなことを言っても許されるとは思っていませんが・・・」
「そういうことじゃ、なくって」
匠が苦々しい顔をした。
「樹のことですか?」
「はい」
自分の弟のことを話すというのにその顔は苦々しい表情をしたまま。
互いに何も言葉が出てこない。
「そちらにも色々と事情があるのは存じています」
見かねた誠司が口を挟む。
空流の後ろへ立って匠と向かい合う。
「空流、ききたいことははっきりと言いなさい」
誠司に促されて、頷いた。
匠へと向き直る。
ゆっくりと匠の目をみて、尋ねた。
「どうして、いままで・・・助けてあげなかったんですか?」
樹がされてきたことをわかっていないわけじゃないのに。
どうして、何も言わないのか。
どうして、怪我をしているのに心配の一つもしないで去ったのか。
あの時、敦也の話を聞いて本当に心配なんかしていないのだと思ってた。
なのに、ここにいる匠はこんなに心配そうな顔をしている。
どうして・・・。

空流も匠も何も言わない。

やっと匠が口を開きかけたとき
ガラガラ、と引き戸のドアが開く音がした。
「一応処置おわりました」
と扉の向こうから現れたのは敦也。
「今は薬とかのせいで眠ってますけど」
ここに流れる異様な空気をものともせずに匠に告げた。
「そうですか・・・」
張り詰めていたものが切れたような安堵の声音。

「一緒に様子を見にいってもいいですか?」
空流が申し出る。
「様子を見にいってやってください」
出された返事はまるで・・・。
「まさか、行かないんですか?」
匠が黙って立ち上がる。
「なんで・・・樹さんのこと心配じゃないんですか?」
感情に任せて言い放った瞬間に、頭に手が置かれた。
落ち着いて、というように。もちろんそれは誠司の手。

「弟のことが心配じゃない兄なんているわけないよ」
もう一度ガラガラと引き戸の開く音がした。
今度でてきたのは俊弥。
「ここにいる以上あなたは保護者になりますからちゃんと説明受けてから連れて帰ってくださいね」
俊弥が有無を言わせずそういって、全員を病室までつれていった。


「手の怪我しているところも他の体の傷も時間がたてば治ると思いますけど・・普段から不摂生な生活をしてるんじゃありませんか?」
俊弥が説明をしながら匠へ尋ねる。
「・・・普段、樹とは一緒に生活をしていないので・・・」
家族ならば答えられて当然の質問に答えられない匠に俊弥はため息。
「樹はほうっておくと食事しないこともあるし、食事してても学食かコンビニで売ってるものくらいしか食べてるのみたことない」
匠の変わりに俊弥が答える。
まだ敦也が関わっている詳細を聞いていない俊弥は苦い顔。
「目が覚めたら連れて帰ってもらって構いません。うちの病院じゃなくていいですから週に一回くらい通院してください」
匠に指示を出して、俊弥の説明は終わりのようだった。
「敦也、行くよ」
呼ばれた敦也は樹のほうを見て出て行くのを渋るけれども、俊弥の射すくめるような視線に観念して病室を出た。