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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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「空流、呼びましたか?」

誠司さん、と名前を読んだ瞬間にそんな声が聞こえたような気がした。
ドアのほうを見ると、そこにはここにいるはずのない人の姿。

幻覚まで見えるようになったのかもしれない、そう思った瞬間、その「幻覚」は動いた。
「空流っ!」
名前を叫んで、上に乗っている人を掴み上げて壁のほうへ思い切り飛ばした。
樹さんが壁にぶつかってずるずるとしゃがむ。
「誠司・・・さん?」
ふわりと、空流の肩に何かがかけられた。
見ると誠司の着ていた上着。

「空流に何をしたんですか」
しゃがみこんでいる樹のまん前に誠司が立ち、上から樹を見下ろしている。
「何か言いなさい」
誠司にそう言われると壁に寄りかかるようにしながら樹が立ち上がる。
「あなたが見たとおりのことですよ、鷹島さん」
誠司に向かって、にやりと笑って見せた。
樹のシャツの胸ぐらを誠司が掴む。
「もし言い訳があるのなら、少しくらいならきいてあげます」
「別に。暇だったから、からかってみただけです」
冷たい目をして樹が言った。
左手で樹の胸ぐらを掴んだまま、誠司の右手が動いた。
硬く拳が握られている。
そのまま動いたらきっと樹の頬へと直撃していた。
「誠司さん、待って!」
空流に右手を掴まれる。
そこでやっと我に返った。
「助けてくれてありがとうございます。でも、やめてください」
今にも泣きそうな顔で空流にそう言われて拳を解き左手を樹から離した。

「なんで止めたわけ?別によかったのに」
樹がぶっきらぼうにそう言うのに誠司が顔をしかめる。
「そうやって偽善者ぶってるのほんとバカみたい」
空流に抑えられていない左手で、樹の頬を叩いた。拳ではなく手は開いたまま。
「樹くん、いい加減に・・」
いい加減にしなさい、と言い掛けた言葉はさえぎられた。
「気安くそんな風に呼ばないで下さい」
樹が誠司を睨む。
「・・・裏切ったくせに・・・」
消え入るような声でそう言って、樹の身体が誠司の方へ倒れた。
「樹くん・・・?」
誠司が樹の身体を支える形となる。
空流が手伝おうと樹の身体に手を伸ばす。
「なんか、すごく身体が熱いです」
息も荒いし顔も心なしか赤みを帯びている気がした。
おでこに手を当ててみる。
「すごい熱・・・」
誠司も同じことを繰り返し、部屋の外へと声をかけた。
俊弥と敦也が二人で入ってくる。
俊弥もおでこに手をあてて熱を確かめた。
その様子を見ながら口を出したのが敦也。
「樹の右手、たぶん指の骨が折れてる。そこから多分発熱してると思う」
俊弥がすばやく右手を確認する。
時間がたった骨折は気持ちが悪いくらいに変色をしていた。
「うちの病院に運ぼう。敦也と空流くんでその子裏門まで運んで。俺と誠司は車を裏門につけておく」
すばやくそう指示を出して、敦也は部屋をでたが、誠司は部屋を出ようとしない。
「鷹島さん、お願いします」
敦也にそういわれてちらりと部屋の外を見るが視線が戻る先は空流。
それに気付くと敦也は何もいえなくなる。
そこに俊弥が戻ってきた。
「なにやってんだ、誠司。いくぞ」
強引に誠司の腕をつかみ、外へ出た。
俊弥に腕を掴まれたまま階段を降り、離れの外へ出る。
「気持ちはわかるけどな。けが人が優先だ」
「・・・わかってる。俺だって樹くんのことを心配してないわけじゃない」
ただ、空流が・・・
そう言おうとしたところで、意外なものが目に入った。
「樹が、どうかしましたか?」
そう声をかけてきたのは一ノ宮匠。
どうやら離れの外にずっといたよう。
「匠さん、でしたっけ?」
答えるのは俊弥。
「弟さんなら俺の弟と一緒にもうすぐ降りてくると思いますよ」
それだけ言って誠司と共に門の外へ出た。
自分たちの車を裏門へつける。
車をおりて、門を開けようとしたがそうするより前に向こうから門が開けられた。
門をあけたのは空流。
そしてその後ろに3人の人影。
敦也と匠が樹を支えていた。