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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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「それなら最初から言えば良いのに」
敦也も樹の隣へ身を沈める。
「・・・全然こんな予定じゃなかった」
「そうだろうね、どうしたの?」

最初はあの子をなつかせて、鷹島さんから大切なものを奪ってやるつもりだった。

「・・・でも、変だ・・・あの子・・・」
この部屋へきた翌朝のこと。

『親が親ならって思われるよな・・・』

演技で言っただけだった。
少し同情を引いてみようと思って軽く言った一言。
でも、とても傷ついた顔をして・・・その後搾り出すような声でごめんなさいと。
それだけじゃない。
体中の痣がまだ消えきっていないのに、それをやった本人の正面に出て行こうとしたり・・・。

怪我してるから、なんていう理由でこの部屋に兄を引き止めたり。

「どうしてそういうことするのか、全然わかんない。おかげでこっちは全部思うようにいかないし・・・」
頭を抱えて自分の膝へと突っ伏す。

しばらく二人とも何も言わなかった。
樹は答えがみつからないことからの沈黙。
敦也は冷静に樹の様子を見ているだけ。

そして部屋のドアがノックされたのはそのすぐ後。
「樹、帰ったのか?」
扉を開けたのは一ノ宮匠。
それを見て樹があわてて顔を上げる。
「こんにちは」
敦也が一応挨拶をする。
無機質に「どうも」という返事が返ってくるだけ。
「樹、親父が呼んでる」
「・・・わかった」
会話は成り立ったけれども、二人の兄弟は両方とも動こうとしない。
「俺は帰るよ。お邪魔しました。空流くんと約束したからまた明日来る」
敦也がかばんを持って、匠に会釈をして横を抜けていった。

「早く来いと言ってた、行くぞ」
そういわれて、樹が渋々立ち上がった。
先に兄が部屋を出て前を歩く。
母屋への道は一つしかないから距離を保ちながら匠の後ろをついていく。

「樹、どうして預かるなんて言った?」
匠が持ち出した話はもちろん空流のこと。
そんなことをしても親の反感を買うだけだ。きっと匠が言いたいのはそういうこと。
「別に理由なんてない」
親の反感を買うのなんて怖くない。
昔から優秀で聞き分けのいい兄とは違ったから。

でも、空流を預かったことに理由がないなんて嘘。
「優秀で聞き分けのいい兄」はそれにも気づかないで振り返りもせずに前を歩く。
空流を預かった本当の理由は、最初はその兄がなんて言うのか気になったから。
自分の弟が重大なところで突拍子もないことを言い出したらこの兄はどう出るだろう。
それを見たかった。
その結果は、あっさりしすぎてて拍子抜けをしたけど。

前を歩いてた匠が居間ではないほうへと歩みを変えた。自分の部屋への道。
あとは樹だけで行けということ。

その背中を見ながら思う。

どうして・・・。

どうして、振り向いてくれない。
どうして、たすけてくれない。
なんで、知らない振りするの・・・・。

兄の背中を見送る自分がまるで小学生のように思えた。
同じようなことが昔あったのかもしれない。

でも、今は違う。
もう大人になったんだから、自分のことくらい自分でなんとかしてみせる。

居間のほうへと足を進めた。