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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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42

夏の日差しがとっぷりくれた頃、この部屋の主は帰ってきた。
「おかえり」
開いたドアのほうへ敦也が声をかける。
「本当にまだいたんだ」
まさか本当にいるとは思わなかった、と樹は意外な顔。
「樹が帰ってくるまでいるっていったでしょ」
「ずっと二人でおしゃべり?」
「いや、そんなことないよ」
敦也が空流の方を指差す。
指差された彼はローテーブルに参考書や教科書を並べている。
「高1のときの教科書?敦也の?」
「いや、樹の。本棚に置きっぱなしだったからさ」
敦也が指差すほうを見ると確かに本棚から本が何冊かすっぽり抜けている。
おそらくあそこに高校のときの教科書や参考書の束が残っていたのだろう。
「あの、勝手につかっちゃってすみません」
使っている本人は申し訳なさそうに頭を下げる。
「どうせ敦也が勝手にやったんでしょ。君が謝ることじゃない」
「樹の言うとおり、俺が勝手にやったことだよ」
「でも、ありがとうございます」
笑顔でそういわれても樹には反応の仕方がわからない。
「好きにすれば」
そっけなくそう言うことがやっと。

「樹、ちょっと話さない?」
「・・・いいけど」
「空流くん、席はずしてもらってもいいかな?ちょっと向こうの部屋で続きやってて」
その言葉を聞いて不思議そうな顔をしながらも教科書などをまとめる。
「そんなにかからないから」
空流が奥の部屋へ入ると、敦也がゆっくりと扉を閉めた。

扉を閉めるとすぐに敦也がオーディオに触れる。
もちろん扉の向こうへと話し声が聞こえないようにするため。
「で、話って?」
「言わなくてもわかってると思うけど」
「・・・わからない」
「認めたくないのは、わかるけどね」
敦也のため息。

「どうしたの?樹らしくもない」
「・・・心当たりが無い」
「嘘つき。なつかせてみるとか言ってたくせに、やってることはその逆じゃないの?」
「それは・・・最初のうちはちゃんとやってたけど、演技するのに疲れただけ」
「しかも身を挺しておばさんから空流君のこと守ったんだってね?」
「俺は、そんなことしてない」
それが嘘だってことくらい敦也には簡単にわかる。
「どっちでもいいけど・・・もし本当だったとしたら驚きだな」
「なんで」
「樹が誰かをかばうなんて、どんな理由があったとしてもあり得ないと思うから」
きっぱりと敦也はそういいきる。
黙ったままの樹を見て、さらにもう一言。
「理由がないなら、尚のことね」
それに対して樹は何も返す言葉が見つからない。
「・・・別に悪いことじゃないだろ」
「そうだけど、ただ驚いただけ。どういう心境の変化?」
樹に考える時間すら与えずに敦也の言葉が降りかかる。
「樹が本当にしたいことはなんなの?鷹島さんのため?それともおばさん?匠さん?」

しばらく沈黙が続いた。
敦也のほうはもう何も言う気がないのか口を結んでいる。
樹は何かを言いかけて口を開きかけては思いとどまることを何回か繰り返す。

そして沈黙を破ったのは樹。

「・・・・わからない」
つぶやくようにそう言うと、力なくソファへと座った。