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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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37

今起こったあまりのことにしばらくの間呆けてたと思う。

それから、寝息を立てるこの人をじっくりと見てみた。
最初に見たとおり、とても綺麗な顔をしている。
あの両親から生まれたなんて考えられないくらい。
襟足につきそうなくらいまで伸びた黒髪は少し癖があって変な方向に跳ねている毛が少しずつある。
顔の色は白くて、閉じている目は切れ長。
寝てると少しだけ幼く見える。

さっきかばわれた時に気づいたけど、意外と肩幅が広い。
全体的にやせ気味で体のところどころに骨が浮いてる。

かばってくれた背中には、さっきは見えなかった青痣が転々と浮かんできていた。
中でも大きく広がっているのはたぶん茶碗をぶつけられたときのもの。


ピリリリリ ピリリリリ

部屋のどこかで携帯の着信音が鳴る。

「・・・・ベッドの上にある携帯もってきて」
いつの間に目を覚ましたのか、うめくような声でそういわれた。
言われたとおりにロフトへ続くはしごを上って、音を鳴らしている携帯電話を掴む。
着信音が鳴り終わらないうちにと少しあわててはしごを降りた。

「どうぞ」
「ありがと」

樹さんが携帯を開いて耳に当てた。

「もしもし?・・・うん・・・ちょっとね。・・・わかった、待ってる」
簡潔な会話をして携帯電話を閉じた。

「ずっとそこにいたの?」
体はソファに倒れたまま顔がこっちをむいて、そう聞かれた。
「はい」
「・・・バカ?」
「え?」
予想外の言葉に戸惑っていると、ため息と一緒に言葉が付け足された。
「俺、寝てたでしょ?」
「はい」
「その間に逃げればよかったのに」
「あ・・・」
そっか、全然そんなこと考えなかった。
思いついたとしても、自分のせいで傷ついたこの人を放っておいて家を出るなんてできなかったと思う。
「天然?」
「違う・・と思いますけど・・・」
そう答えたけど興味のなさそうな生返事が帰ってきただけ。
「これから敦也、来るから。俺が弱ってるからって逃げられないよ」
それだけ言ってまた目が閉ざされた。

誠司さんや俊弥さんに一言でも連絡しなきゃいけないって言う気持ちはあるけれど、逃げようなんて気は不思議と起こらなかった。
なんでだろう・・・。

それからまたしばらくして、部屋のドアがノックされた。
きっと敦也さん。
「入って」
樹さんがドアに向かってそう声をかけるとドアが開く。

「あれ・・・」
ドアを開けたのは敦也さんではなく・・・匠さん。

そして樹さんを見て少しだけ顔をしかめる。
この怪我が目に入ったんだろう。
「夜に親父が帰ってきたら、また居間で話があるそうだ」
でも、それだけ言ってまたドアを閉めようとした。

「ちょ、待ってください・・・」
つい声をかけてしまった。
眉間にしわを寄せて、匠さんが振り返った。
「何か?」
「それだけなんですか?」
「それだけ、とは?」
「だって・・・樹さんが、こんな怪我してるのに・・・」
心配する言葉の一つもないなんて・・・・。

「用が済んだなら早く出て」
樹さんがきつい口調でそう言った。
匠さんは何もいわずにもう一度チラリと樹さんを見た後、ドアを閉めた。