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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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34

部屋にノックの音が響く。

「樹、起きてるか?」

部屋の外から声がする。
この声は、昨日の人だ。
一ノ宮のお兄さんのほう・・・確か名前は匠。

樹さんが立ち上がって、ドアを開けた。
「起きてるけど、なに?」
ドアの外へ向かって問いかける。
「親父とお袋が呼んでる。着替えたら居間に来い」
その言葉に樹さんが盛大に顔をしかめる。
「我慢しろ。嫌だといったところで何とかなるものでもないだろ」
「それはわかってるけど」
「親父とおふくろが嫌なら早く大学を卒業して家を出て行くんだな」
「それもわかってる。着替えたら居間に行く」
樹さんがそう返事を返すと、匠さんは去っていった。

「勝手なのにもほどがある」
ドアを閉めて、そう呟く。

なんか変な感じのする家族だな、って思った。
兄弟を通じて親が子どもを呼ぶっていうのはまだ広い家だから、って納得できるけどその後の会話が・・・。
両親のことなのに、まるで赤の他人みたい。

「君も着替えて」
押入れから適当に出された服がこっちに投げられる。
「俺のだから大きいと思うけど着れないことは無いでしょ。そのままでいいならそれでもいいけど」
自分が着ている服は昨日のまま。
さすがに二日連続で同じ服を着続けるのは気持ちが悪い。

仕方なく、服を脱いだ。
その瞬間に樹さんの視線がこっちに注がれるのを感じる。
不思議に思って見返すと、すぐに目をそらされた。

「それ、誰がやったの?」

ポツリと樹さんが言った。
その一言で納得する。
この人の目に留まったのは、まだ体から消えきらないたくさんの痣。
だいぶ薄くはなったけれども、完全に消えてはいない。

その質問には聞こえない振りをして答えなかった。
きっと答えが聞きたくて聞いた質問じゃないだろうから。

「顔洗ってくる。君も奥の部屋で適当に身なり整えて」
「あ、はい」

「言っとくけど、これから君も一緒に行くんだからね」
「え?」
そんなの、聞いてない。
「あいつらに勝手なこといわせないためにも、隙をつくらないで」
でも、僕よりもずっとこの人が辛そうな顔をしてる。
自分の両親なのにあいつらなんていう呼び方するし。

それを見てると、さっきまであんなに怖いと思ってたのにその気持ちはもうあんまり感じなかった。

「10分で顔洗ってきて。あんまり待たせておいてもうるさいから」

それだけ言って、部屋を出て行った。

言われたとおりに顔を洗って、髪を整える。
新品の歯ブラシが用意されていたからそれで歯も磨いた。

部屋の中で大人しく座ってあの人がかえってくるのを待つ。
これから大嫌いな人たちに会いに行かなければ行けないのに、気分はそこまで悪くなかった。

それは、一人じゃなという安心感からなのか、息子にまで嫌われるあの人たちを心のどこかで哀れんでいたのか・・・理由はよくわからなかった