君ト描ク青空ナ未来 --完結--
6
7月の初め、仕事にひと段落をつけた誠司は、伊豆の別荘に移動中だった。
まとまった休暇をとれたのは何年ぶりか。
鷹島グループ総裁が長男、鷹島誠司といえば、もうその業界で知らない者はない。
生まれたときから次期鷹島グループ総裁であることが決められており、現在は鷹島グループ傘下の会社社長をいくつか兼任。
毎日毎日、仕事に追われ、休日もろくにとれない。
仕事内容といえば、数字とにらめっこか人間との駆け引き。
こんな生活で人間性が失われない方がおかしい。
人間としての感覚なんてとうに失せた。
それに、休暇に別荘に行くとは言っても、静岡の支社の視察がてらにすぎない。
静岡に進出する会社がもう一つある。
そのために夏の間はそこにとどまる事になりそうだ。
結局静岡に発つのも夜になってしまった。
そのうち雨まで降り出して、最悪だ。
世田谷のあたりを車で走っていたとき、人気のない道の歩道になにかあるのが目に入った。
「ちょっと、止めてくれ」
秘書にそういって、車を止めさせる。
傘を持って、雨がザーザー降りの外へ出た。
「誠司さま?」
「誰か、倒れてる」
歩道に倒れてたのは不自然に痩せた少年だった。
傘も持たずに足は裸足で血が滲んでいる。
「誠司さま・・・?」
秘書の喜田川も車から降りてくる。
倒れている少年をみて、顔色が変わった。
「喜田川、後部座席に毛布をしいてくれ」
「はい」
喜田川がトランクから毛布を出して後部座席に敷いたのを見て、少年を抱き上げた。
後部座席に横たえて、自分は助手席へ。
「誠司さま、珍しいですね」
「何がだ?」
「失礼ながら、誠司さまなら彼が倒れていても知らぬふりをして車を走らせるかと思いました」
「ああ、そうしたかもしれないな」
自分でもなぜ助ける気になったのかはわからない。
人助けなんていう精神はとうに失われたと思っていたのに。
きっと単純な興味。
不自然に痩せた体形、この時世に裸足。
痣だらけの体。
詳しくはわからないが、大体想像はつく。
児童虐待、そんなところだ。
取引先の客が見てる前だったら迷わずに助けただろう。
鷹島の跡取りといえば、その人の良さで有名だ。
人当たりのよさの演技は誰にも負けない、ばれない。
それが演技だと知っているのは秘書の喜田川と自分の養育係だけ。
「なんで助けたんですか?」
「単純な興味だ」
「そうですか」
なぜ惹かれたのかはわからないが、放っておけなかった。
理由はわからない
わからない、なんていう感覚は久しぶりだった。
学校の問題が解けなかったことは一度もないし、知りたいと思ったことは調べればなんでもわかった。
わからない、その上に調べようがないだなんて、こんな感覚は久しぶりだ。
知りたい。この少年が目覚めればそれがわかるかもしれない。
多分、きっと・・・そんな興味。
作品名:君ト描ク青空ナ未来 --完結-- 作家名:律姫 -ritsuki-