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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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「あの、あなたは…?」
そう聞くと、その人は少し驚いたような顔をしてから言った。
「私は鷹島誠司(タカシマ・セイシ)といいます。あなたの名前も教えていただけますか?」
「寺山空流です」
「すみません、もう少しゆっくり」
「寺山、空流」
「てらやま、あきる、君であってますか?」
「はい」
なんでそんなこと聞くんだろう。
耳が悪いのかな…?
「詳しい事を説明する前に、連絡したい先があれば私が代わりに連絡しておきますが。お母様やお父様が心配してらっしゃるといけないので」
親切な申し出に首を振る。
「父も母も、いません」
「そうでしたか、すみません…」
謝ってもらうことじゃないから、また首を振った。
「それでは、代わりの保護者に連絡をしますが・・・」
連絡なんてしてほしくなかったから首を振った。
またあんなところに戻るなんて、冗談じゃない。
殺されるために戻るなんて…嫌だ。

蒸し暑い倉庫に一日中閉じ込められて、必要最低限のモノしか与えられない生活。
あの人がイライラしてるときには理由もなく叩かれたり、物を投げられたりして、体に残ってる痣の数は数えられない。

もし、これが幸せな夢であるなら、もう醒めないでほしい。

「ここは、どこですか?」
「ああ、そうでした。ここは静岡の伊豆にある私の別荘です。私も普段は東京に住んでいるのですが、仕事の都合上、勝手にこんな遠くまでつれてきてしまってすみません」
「いえ…。あなたが僕を助けてくれたんですか?」
「すみません、もうすこしゆっくりと喋って下さい」
「あなたが、僕を助けてくれたんですか?」
さっきよりゆっくり、はっきりとしゃべる。

その時になって気が付いた。
この人は、僕が喋るときに僕の唇をまじまじと見てる。
この人の耳が悪いんじゃない…僕が、しゃべれてないんだ…。
あのとき、よろしくおねがいしますと、あの人に言ったときに声が出てないって言われた。
自分では自分の声も聞こえてるのに。
僕以外の人には、僕の声は聞こえていない…。

精神病…?
そんな!まだこんな意味がわからない病気にかかってるなんて…。
自分の声は自分で聞こえてる。
自分の言ってることは全部自分の耳にも入るのに…。

なんで・・・?
どうしてこんな、意味わからないことばっかり起こるんだよ。

「空流?聞いていましたか?」
声をかけられて、はっとした。
なんか書くものはないかと周りを見渡す。
「使いますか?」
ペンと手帳が差し出された。
受け取って、ペンを握る。

『僕、しゃべれてないですか?』
その質問に答えるのを一瞬躊躇したようだけど、結局その人は頷いた。
「はい。自分で気付いていないのなら黙っていた方がいいのかとも思ったのですが」
『自分では、自分の声は聞こえてるんです。』
「はい、そういう症状を聞いた事があります。心に強いショックを受けるとそのような病気にかかることがあるそうです。」
心に強いショック、か…。
もう思い当たる事がありすぎて、わからない。
『どうすれば、治りますか?』
「残念ですが、そのような病気の治し方というものはないそうです。ある日突然治ることもあり、その逆も然りです。心療内科の医者にかかると治しやすくはなりますが・・・」

・・・治るかもしれないし、治らないかもしれない。
そんな、治らないかもしれないなんて・・・。
声を失ったまま生活するなんて、それこそ現実的に生きていけない・・・。

「空流、どうしたいですか?」
「え・・・?」

「私は、人に気を使うということが苦手です。私はきっとこれからあなたが傷つくことを言ったり聞いたりするかもしれません。いいですか?」
黙ってうなずいた。
「では、少し私の話を聞いてください。あなたを助けたときのことです」