君ト描ク青空ナ未来 --完結--
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「最近の接待をすべて断っていたのは、このためだったのですね。
めずらしく喜田川の不機嫌な声。
「ホテルに入るテナントも決まったし、別に今更困ることもないだろう」
動じることなく答える。
「影で言われています『最近の鷹島の若は付き合いが悪い』と。気まぐれで助けたあの少年のために、あなたがそんなことを言われる必要がありますか?」
「私がしたくてしているんだ。関係ない」
「噂まで立ってるんです。恋の病に冒されただの何だのと・・・。」
「別に芸能人じゃあるまいし、困ることはない」
「いいえ、10歳以上も年下の、しかも少年が恋の相手だなんて知られたらとんだスキャンダルです」
・・・自分の耳が悪くなったのかと疑った。
「・・・なんだって?」
「ですから、10歳以上も年の離れた少年に恋を・・・」
「いや、もういい」
自分の耳が悪くなったわけではなかった。
「何をどうしたら、私の空流への態度が恋になるんだ?」
そう聞くと、喜田川は何かものすごく物言いたげな顔をした後にため息をついた。
そして一言、こう言った。
「誠司さまは、学生時代などに恋人がいたことは?」
「そのくらいの経験は誰にでもあるだろう」
「お付き合いされてた方のことを愛していましたか?」
・・・そう聞かれると少し困る。
付き合うといっても、向こうが強引に押し切ってきただけのことが多い。
「誠司さまはあの少年のことを愛しているのではないですか?ご自分では気づいてらっしゃらないだけでは?なにせあなたは人を愛するということをご存じない」
「ひどい言われようだな」
「事実です」
「今まで誰にも抱かなかった感情をあの少年に抱いた覚えは?」
そう聞かれて、今までの空流への思いがフラッシュバックする。
―――傍にいてほしい
―――喜ぶ顔が見たい
―――もっと有りのままが見たい
―――心を開いてくれるのが嬉しい
―――私のいないうちに加川と仲良くなったのが少し悔しい
確かに、誰にも抱いたことのない感情だらけだ。
しかもこうして思い返してみると、小説やテレビなどの仮想現実でしか触れてこなかった愛の感情と似ているような気がしなくも無い・・・。
「やはり思い当たる事がおありなのでは?」
「そんなことは・・・」
ない、とは言い切れなかった。
「ですがそれは気の迷いです。閉鎖的な環境、同情すべき相手。同情は愛に変わりやすい。錯覚です。どうか目を覚ましてください」
「・・・喜田川」
「口が過ぎるのは承知の上です。しかし、あの少年の存在はあなたにとって必ず邪魔になる。情が深くならないうちに縁を切った方が良い」
「しかし・・・放っておけるわけがないだろう」
「なぜ?」
「・・・怪我もまだ完璧になおったわけじゃないし、なにせ行くところがない」
私の言葉に納得していない喜田川がためいきをつく。
まるで聞き分けの無い子供に言い聞かせるように言葉をつむいだ。
「世話できない捨て猫を拾ってはいけない、と幼少のころに習ったでしょう?それと一緒です。あなたが一生面倒を見れるわけではない。それなら今のうちに手を打つべきです」
ずいぶんと、冷淡な意見だ。
「・・・私にどうしろって言うんだ?」
「あらかたの事情は聞きましたので、一ノ宮に返せとは申しません。施設か、働く先を探させるべきです」
「高校も出ていないんだぞ、それにまだ16歳だ。できるわけないだろう・・・」
「16歳は立派に働ける年齢です。あの少年は、絶対に将来、誠司さまの活躍の邪魔になります」
きっぱりと喜田川が言い切った。
「・・・それでも、私が空流を見捨てるなんて・・・できるわけがない」
その呟きは小さすぎて、ドアの向こうには届かなかった。
「よくお考えになってください、失礼します」
その言葉と同時にドアの向こうから走り去るような足音がしたのはきっと、気のせい・・・。
作品名:君ト描ク青空ナ未来 --完結-- 作家名:律姫 -ritsuki-