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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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29

「靴はここへしまってください」
「はい、ありがとうごいます」
「いえ、明日にでもはいて外に出てみるといいのではないですか?」
「・・・でも、なんか汚しちゃうのもったいないような気もするんです」
汚れ一つない新品の靴。
しかも、値段は万単位。
「そうですね、私も新品を買ったときにはいつもそう思います」
「加川さんでも、思うんですか?」
「ええ、きっと誰でも少なからずそう思うと思いますよ、誠司さまでも」
「誠司さんでも?」
考えられない。こんな高いものをぽんと買えちゃう人でもそんなこと思うなんて。

「誠司さまだって普通の人と何も変わらないですよ」

言われたのはそんな当たり前のことなのに、妙に感心した。
誠司さんが普通の人っていうイメージが全然なかったから。
僕にとって誠司さんは何においても特別だった。

「あ、そういえば、ちゃんと誠司さんにお礼言ってなかったかも・・・。」
嬉しくて、お礼を言うのも忘れてた気がする。
「それでしたら、今行ってきたらいかがです?多分お部屋の方にいらっしゃると思いますよ」
「はい、行ってきます」

長い廊下を歩いて、誠司さんの部屋へ。
ドアの前に立って、ノックをしようと手をあげたところで、中から喜田川さんの声が聞こえた。

『世話できない捨て猫を拾ってはいけない、と幼少のころに習ったでしょう?それと一緒です。あなたが一生面倒を見れるわけではない。それなら今のうちに手を打つべきです。』
捨て猫・・・?
なんの、話・・・?
『それで私にどうしろって言うんだ?』
応じる誠司さんの声も落ち着きがない。
『あらかたの事情は聞きましたので、一ノ宮に返せとは申しません。働く先を探させるべきです』
一ノ宮!?
まさかとは思ったけど・・・これは僕のことだ。
僕をどうするかで、2人が話してる・・・。
『高校も出ていないんだぞ、それにまだ16歳だ。できるわけないだろう・・・』
『16歳は立派に働ける年齢です。あの少年は、絶対に将来、誠司さまの活躍の邪魔になります』

邪魔・・・?
僕が誠司さんの・・・?

頭から冷水をかけられたような気がした。
体中が麻痺して動かせなくなるような、そんな感じ。

喜田川さんの言葉に対する誠司さんの返答はとうとうなかった。

『よくお考えになってください、失礼します』
落ち着いた喜田川さんの声が聞こえて、我に返った。

ここで見つかるのはまずい。
そう思って、自分の部屋にあわてて入った。


涙が滲んでくるのを止められなかった。
電気もつけずに、ベッドに入って布団にくるまる。
そうしないと、泣き声が外に漏れそうで怖かったから。

ずっと、涙は止まらない。

なんで、いつもいつも上手くいかないんだろう。
事態は思う方向とは反対へと動く。
誠司さんの邪魔になんてなりたくないのに・・・。
なんで・・・。

コンコン、というノックの音が響いたのは突然。
ドアの開く音がした。
「空流、寝てしまいましたか?」
誠司さんの声。
大好きで仕方がないのに、自分の存在がこの人を苦しめてしまう。

誠司さんの声には返事をしないまま、声を殺した。
ドアを閉める音がして、誠司さんが歩き去るともう我慢できなかった。
声を殺すのも忘れて、小さい子どもみたいに泣きじゃくった。