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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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24

加川さんが部屋の扉を叩いた。
「夕飯の用意ができました」
って言って、食堂の方へ戻っていく。
「誠司さん、ちょっと見てください」
そんなことを言って見せるほどのものでもないけれど、少しうれしかったことがあったから。
ソファから自分で立ち上がって、車椅子に座った。
案の定、誠司さんは驚いた顔をしてる。
「空流、立てるようになったんですか?」
「はい、でもまだ歩くにはかさぶたが食い込んで痛いんですけど。少しだけの移動なら自分で出来るようになりました」
そういうと、誠司さんがめいっぱい微笑んだ。
喜んでくれてるんだな、っていうのがわかって、すごく嬉しい。
「あと一週間もすれば、自分で歩けるようになりますね。そうしたらお祝いに靴を贈りますよ」
「え、いいです、そんな・・・」
「そうは言っても、靴を持っていないでしょう?」
「そうですけど・・・」
「めいっぱい甘えていいんですよ、あなたはそれだけの苦労をしてきたんだから。他に欲しいものは何かありませんか?」
「いえ、もう十分すぎます!」
「そうですか?では必要なものがでてきたらいつでも言ってくださいね」

その言葉に、本当にお伽話の足長おじさんみたいだなあ・・・と思ったのは秘密。

夕食が済んで、部屋に案内された。
見覚えのある部屋。窓が大きくて、ベランダもある。
クローゼットもあるみたいで、買ってもらった洋服はここにしまっておくといいことを教えてくれた。

「それから、本も運んでおきましたので良かったら読んでください」
「はい、ありがとうございます」
「ちなみにどんな系統の本が好きですか?」
「何でも読むけど・・・ホラーはあんまり好きじゃないです。ファンタジーとかミステリーとかを一番よく読みます。あとは・・・恋愛ものはあんまり読まないです」
「そうですか、わかりました」
「誠司さんは・・・?」
「そうですね、最近あまり本は読まないのですが昔は流行のものを追っていました。それこそジャンルは関係ないんですが」
「だから、何でもあるんですね」
「そうですね、ミステリーやファンタジーだけでも結構な量がありますから、楽しんでください」

本棚には本当にたくさんの本があった。年代を見ると、誠司さんが僕の年くらいに読んでたはずの本だということがわかる。
それにしても、こんなにたくさんの本を買っちゃうなんてすごいなあ。
自分もよく本は読むけど、持ってたのはほんの数冊、自分が本当に気に入ったものだけ。
そんなに買うお金なんて持ってなかったから。

「明日から、昼食だけでなく、夕飯も一緒に取れない日が多くなる思いますが、大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「無理をせず、たくさん食べてくださいね」
「はい」

その夜は、すごく幸せな夢を見た。
母さんが生きてて、誠司さんもいて、加川さんもいて、みんなでこの家で食事をしてる夢。
朝陽の中で目が覚めるまで、夢だなんて思いたくなかった。

時計を見ると、もう7時半を少し回ったところだった。
顔を洗いに行って、服を着替えてから食堂へ。
まだ誠司さんはいなくて、加川さんがいた。
こっちに気がついて、挨拶をしてくれる。
「おはようございます。早いですね」
「あ、おはようございます。えーっと、今日から誠司さんのお仕事が始まるんですよね?」
「誠司さまはもうそろそろいらっしゃると思いますよ。朝食はご一緒でよろしいですね」
「はい、ありがとうございます」
「いいえ、ではもう少しお待ちください」

席について、誠司さんを待つ。
そう間をおかずに、待っていた人は現れた。
スーツをきっちりと着て、髪を撫で付けてる。
「誠司さん・・・?」
「おはようございます、早起きですね」
「はい、おはようございます」
挨拶を返しながらものめずらしい誠司さんの姿をまじまじと眺めてしまう。
「私が髪をあげてるのは変ですか?」
「いえ、変ってわけじゃないけど・・・新鮮です」
「仕事のときはいつもこれですし、あなたが最初に目を覚ましたときも仕事帰りだったのでこのスタイルでしたよ」
「そういえば、そうだったかも・・・」

「お待たせしました」
そう言って、加川さんがテーブルに食事を並べた。
他愛のない話をしながらの朝ごはん。
こんなに和やかに食事ができるなんて。

昔抱いた家族への憧憬が満たされる気がして、すごく心地よかった。