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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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19

誠司からもらった服を着てみたり、眺めたりしていたら、あっという間に二時間が経った。
この大量とも言えるような量の服のTシャツ一枚だけでも目が飛び出るような値段だと知るのはもう少し先の話。

「そろそろ、俊弥のところへ行きますか」

そう声をかけられて、初めて時間だってことに気がついた。

心療内科の仲原俊弥先生。
友達と言っていたけど、自分にとってははじめて会う人。
どんな風に振舞えばいいのかがわからない。

知らない人に会うってことが怖いなんて思うのは、いつからだっただろう。
ずっと前はそんなことがなかった気がする。
小学校低学年のころはまだ。

小学校高学年になってからだ。

家が貧しかったから、服なんて数えるほどしかもってなくて、着古した服をずっと着てた。それで、貧乏だと馬鹿にされるようになった。
でも、うちには新しい服を買うお金なんてなかったから、耐えるしかなかった。

『あきる君の家は ぼしかてい だからお金がないんだってお母さんがいってたよ』
『ぼしかてい ってなに?』
『お父さんがいないんだって』

クラスの女の子たちが、そう言っているのを聞いた。
それから、母子家庭であることを馬鹿にされるようになった。

お父さんが欲しい、と母さんに言ったことがある。
でも、母さんは困ったように笑って、その後にすごく寂しそうな顔をした。
だからもう、父さんのことをいうのはやめようと思った。

それから、人に会うのが嫌になった。
誰に会っても母子家庭であることを馬鹿にされるなら、誰にも会いたくない。

どうせ新しい服なんて買ってもらえない。
自分の部屋ももってない。
ゲームソフトも、流行りのおもちゃも何もない。

同じ年頃の子からは敬遠され、その子たちの親からは哀れみの視線。

中学校に行って、少しづつ大人になるにつれてそんな疎外感は少なくなっていったけれど、それでも公立の中学校なんて小学校からのメンバーとほとんど顔ぶれはかわらなかった。

中学へ行ってもお小遣いなんていう余裕もなかったから、お金のかからないことしかできなかった。
図書館へ行って本を読むか、勉強。
お金のかからない時間のつぶし方なんてこれくらいしかなかった。

そのおかげで勉強はいつもトップクラス。
高校へ行くことを決めるとき、トップクラスで学費の安い公立高校への入学が決まって、しかも奨学金までもらえることになった。

やっと皆と同じように生活ができる、とそう思った。
まさか交通事故を告げる一本の電話から、すべての状況が変わってしまうなんて思いもしなかったから。

そして、その時だった。
今、『知らない人に会うのが怖い』と思っている原因の一番高いパーセンテージを占める人たちに会ったのは。


『いやよ、どうして私たちがあの子を引き取らなきゃいけないの?』
『仕方ないだろ、うちが引き取るのが一番いいと言われたら断れない』
『あんな子、うちの家名が穢れるわ』
『「お前の妹の子だ、お前が責任もって面倒を見ろよ』
『なんで私が・・。あの子もよくもまあこんな恥さらしの跡を残して死んでくれたわ』


ショックで何もいえなかった。
ずっと母子家庭であることを馬鹿にし続けられて、疎外されて生きてきた。
それでもずっと耐えてきたのに、僕が受ける評価はこれでしかない。
高校も決まって、やっと皆と同じように生きられると思ったのに・・・。

どうせ人が僕をみるときには、そういう評価しかしてくれない。
知らない人に会うのが怖い。

知らない人からそういう評価を下されるのが怖かった。

「空流?行きますよ」
そう言って車椅子を押してくれる誠司さん。
この人だけは、皆が僕に下すような評価を下さなかった。

声が出るようになりたい。
声を出して、思ってることを全部伝えたい。

だから、仲原先生に会って早くこの症状を治したい。

一階の客間に入る。
L字型に僕と仲原先生が座って、僕の隣に誠司さんが座った。

「寺山空流くんだね。仲原俊弥といいます。よろしく。この場では何を言っても責められることはないし、秘密も守られるから、安心して話してね」

その一言から始まったカウンセリング。
始めのうちはすごく緊張してて、何を言われたか、何を言ったかもよくわからないけど、想像していたよりもずっと柔らかい空間で、心地よかったのは覚えてる。