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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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18

正午前には俊弥の車が到着した。
医師二人とは別室で食事をとってから、あらためて客間に案内をした。

まずは咽喉科の診察。
平良と名乗った医者は30も半ばを過ぎたらしく落ち着きのある男だった。
着々と診察を進め、声帯や喉には異常がないことを告げた。

そうなると今度の出番は俊弥。

咽喉科の医者にはこんな遠くまで来てもらったけれども、異常がないことがわかった以上もうしてもらうことはない。
これで失礼しますという平良氏の言葉を否定することなく、加川に駅までの送りを頼んだ。

空流を少し休ませるために私室へとつれていく。

「不安ですか?」
カウンセリングを受けることに対して。そして初めての人間に会うことに対して。
不安そうで、そわそわした様子は昨日から続いている。
私の言葉に空流は少し考えてからうなずいた。
「私も同席しますし、俊弥は信頼できる人間ですよ。何も心配することはありません。全部、相手に任せてしまって、空流は楽にしていてくれればいいのですから」
こんな言葉が気休めにもならないことはわかっていたけど、言わずにはいられなかった。
「何時から始めるかは任せますが、2時間後くらいでどうでしょう?」
一度時計をみてから、うなずいたのを確認すると部屋を出た。
ハーブティーでも入れて落ち着かせようと、そう思ったから。

「誠司」
廊下へ出て、客間の前で呼び止められた。
「俊弥、どうかしたか?」
「同席する上でお前に何個か注意しておこうと思って。一つ目はカウンセリング中に口出すなってこと。お前からきいて知ってることでも知らないフリして本人に聞くこともあるし、止めに入るのもなしだ。あと、カウンセリング中は俺の指示には絶対したがってくれよ」
「ああ、医者の邪魔をするほど馬鹿じゃない」
「だといいけどな。守らなかったら容赦なく追い出すぞ」
そういい残して、客間へ引っ込んだ。
追い出す、か。俊弥なら本当にやるだろう。


「嫌いでなかったら、どうぞ」
部屋へ戻って、空流にハーブティーを差し出したところで、来客を告げるベルが鳴ったのが聞こえた。
「すみません、すぐに戻ってきます」
そういい残して、また部屋を出た。
呼び鈴を鳴らすということは加川ではない。
誰だ?誰か来る予定なんてあるはずもない。

来客用のインターホン電話機を取ると、来客者の映像がうつる。
映っていたのは、宅配業者の姿。
「はい?」
門の外にいる人物に向かってそういうと、相手は自分が宅配業者である事を告げた。
門を開け、玄関まで大きめのダンボールを運んできてもらう。
その間に書斎から印鑑を持ってきた。
私が玄関につくのと、宅配業者が二回目のインターホンを鳴らすのが同時。
荷物の受け取りをして、宅配業者の男は物珍しそうに周りを見回しながら去っていった。

荷物に貼り付けられた伝票を見て、やっとそれが何であるかがわかる。
俊弥が来ることでバタバタしていたからすっかり失念していた。
空流のための生活用品をまとめ買いしておいたんだった。
それが今日届いたと言うことか。

好きな系統の服なんてわからないから、似合いそうな物を適当に買ってしまったけれど。

早く空流のところへ持っていって着てみてほしくて、箱をあけ、中に入っている紙袋を取り出すと、まっすぐに部屋へと歩き出した。

私の見立てが間違っていなかった事がわかるのは、すぐ。
やはり空流は名前の通り空の色が似合う。
気持ち良いくらいの夏の快晴のような、そんな色。
一番似合うのはやはりその色だけれど、明るい色は何でも似合うようだった。
自分の服を買うためなら面倒なだけでしかない買い物も、空流の服を見立てるためだったら面白いかもしれない。

「よく似合いますよ、私からのプレゼントです」
久しぶりに真新しい洋服に袖を通して、落ち着かない様子の空流にそう言った。
その言葉に、驚いたように目を見開いた後、もらえない、とそういうように首を振った。
「貰ってください、前に、私はあなたにここにいて欲しい、とお願いしましたよね。そのお願いを聞いてくれたお礼です」
まだ納得できないらしい空流へ、さらにもう一言。
「では、空流がそれを私に返したとして、私がそれを着ると思いますか?」
また首を振った。当たり前だ。
「そういうことです。もらってくれますね?」
返されても困る、と暗に言った。
それを汲み取ったのか、今度は空流も頷いた。
それと同時に、ありがとうございます、と唇が動いた。
少しはにかみながら笑って。

それだけでもう、充分だった。

「喜んでもらえて、嬉しいです」
この言葉を本心から言ったのは本当に久しぶりだった。