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律姫 -ritsuki-
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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第一部・20話〜


20

二日目からは、仲原先生と二人で面接。
昨日は、どうしてもあの場で自分が今まで育ってきた環境を話せなかった。
それは誠司さんには知らないで欲しかったから。

ここに来て、誠司さんにどうして道に倒れていたのかを説明したときは、母さんがいなくなったところからしか話してない。
母さんが生きていたときの生活をどうしても誠司さんの前では話せなかった。

だって、きっと誠司さんが望むのは、『母親が生きてるころは幸せだった』っていう像。
ドラマみたいに、『母さんがいなくなる前はずっと明るく健気に生きてきた』っていう設定が必要なんだと思うから。

確かに倉庫で一日中すごすよりは幸せだったとは思う。
でも、明るく健気に生きてきたなんて、とてもじゃないけどいえない。
クラスの子が持ってる新しい筆箱が羨ましかったし、テレビゲームもしたかった。流行のおもちゃも買ってほしかった。
ずっと皆が羨ましくて仕方なかった。ねたましく思ったことさえある。
僕だって好きで貧しく生まれてきたわけじゃない、って思ったことも。
こんなの、全然健気じゃない。

「空流くん、じゃあ2回目の面接を始めようか。」
先生の言葉にうなずいて、二人きりの面接が始まった。

「中学校までどうやって生活してきたか、教えてくれる?」
やっぱり、来た。
『誠司さんには秘密にしてもらえますか?』
答えじゃなくて、そう書いた。
「もちろん、空流くんの話すことは誰にも言ったりしないよ」
その言葉を信じて、正直に書いた。
今まで感じてきた羨望と妬み。
馬鹿にされてきたことの悔しさまで全部打ち明けてしまった。

書き始めてしまえば、ためらうことなく全部打ち明けられた。
それはこの人が話を聞くプロだからなのかもしれない。

「それを誠司には知られたくない?」
うなずいた。
「どうして?」
もうここまできたら、何をいっても同じだと思って、正直に書いた。
『きっと誠司さんが望む僕の姿と現実はかけ離れてると思うからです』

「じゃあ、誠司はどんな君を望んでると思うの?」
明るく健気に生きてきたけど、母親の突然の死によって、すべてを無くしてしまったという悲劇。
「なるほどね」
仲原先生が言ったのはその一言だけだった。
何を言っても馬鹿にされないなんていう経験は初めてで少し戸惑う。

世の中には、こういう人もいるのか、それともこの人がお医者さんだからか。
誠司さんはどうだろう?
悲劇のヒーローを期待してる?
そう聞いてみたらどんな反応をするんだろう。
心から否定してくれる?
それとも、口では否定して心ではやっぱり僕のことを馬鹿にする?

「ちょっと発声練習をして、休憩にしようか」
先生がそういったから、昨日もやった発声練習を少しした。
相変わらず、声は出てないみたいだった。
自分では出てると思うのに。

それから30分休憩を挟んで、再び開始。

今度は少し未来のことに目を向けた話。

あの人たちから逃げるのに精一杯で自分のこれからなんて考えてもいなかった。
現実的には、今一人で生きていけるような状況じゃない。
本当なら高校にも行きたかった。
できれば、大学にも行きたいと思ってた。

でも、そんなことはもう無理。
怪我が治って声が出るようになったらどこかで働かないと。
住み込みの働き口とか探せないものか。

そんな話を仲原先生にした。