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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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27

ゆっくり考えればいい、と周りは言ってくれたけれど、そうもいかない。
空流の出す決断を、皆が待っている。

そんなことを考えすぎていたせいだろうか。

夢をみた。

目の前に広がる光景は夢だとわかっていて、自分はそれを遠くからみているだけ。

若い男女と、やっと歩けるようになったほどの小さな男の子が見える。

彼らのいる場所は、木々に囲まれた崖の上の大地。
目の前には沖合いの海が広がり、太陽の光をあびてキラキラと輝いている。
頭上には澄みわたる夏の青空。

小さな男の子は波の打ち寄せる音に興奮してはしゃいでいる。
その様子をみながら、男女二人も幸せそうに微笑みあっていた。

『あんまりはしゃぐと、海におちちゃうよ』
男性がそういって、男の子を抱き上げる。

男性は、懐かしそうに目を細めてそこからの景色を見つめた。
『ここに、七海と空流にも来て欲しかったんだ。僕の一番大好きな場所』
『綺麗なところね』
女性の髪が、海風にさらさらと揺れる。
『うん。それにね、君と結婚して空流が生まれてから、ここをもっと好きになったよ』
『どうして?』
『海と空と大地。ここには皆あるから』
ちょっとしたこじつけに女性が笑い声をあげた。
『笑わないでよ。世界は海と空と大地で成り立ってるんだ。僕の世界も一緒。七海と空流と僕がいれば、幸せだ』
『ええ、私も』

日の光を反射して、海がきらきらと光る。
会話にでてくる名前は、聞きなれたものなのに、他人のもののように感じた。

『七海、この先何十年も先の話だけど、もし僕が君より先に死んだら、僕の骨の一部でもいいからここから撒いてくれない?』
『あら、あなただけずるい。私もここが気に入っちゃったから、私も一緒がいいわ。そうだ、空流にお願いしましょう。私たちはきっとあなたたちよりも先に死んでしまうから・・・今日のことを覚えていたら、私たちの骨をここから一緒に自然に返してね』

波の音にきゃっきゃとはしゃぐ男の子は、当然言われていることの意味などわからない。
二人の男女が小さな男の子に向かって微笑みかけた。

『僕らがよぼよぼのおじいさんとおばあさんになって、空流が立派な大人になったら、もう一度ここへ一緒にきて空流にお願いしような』

その言葉を最後に、夢の景色はかすんでいった。

『随分はやく、君の前から姿を消してしまってごめん』
『長い間、あなたに寂しい思いをさせることになっちゃったわね、ごめんなさい』

徐々に白く霞みゆく景色の中、最後にそんな声を聞いた気がした。




目じりから水滴が零れ落ちる感覚で、目が覚めた。
「あ・・・」
外はもう明るく太陽が輝いている。
「おはようございます」
目の前に、微笑みかけてくれる愛しい人の姿。
「怖い夢でもみましたか?」
頬を流れる涙をぬぐいとってくれる。
「夢を、みました・・・」
「どんな?」
ぽつぽつと消えていきそうな夢の記憶から、断片を拾い集めて誠司へ話す。

誠司はなにも言わなかった。
ただ、黙って空流の要領を得ない夢の話に付き合ってくれた。


決心がついたのは、それからしばらく後のこと。
「お墓のことどうするか、決めました」
あの夢が本当にあったことなのかどうかは、わからないけれど・・・。
それでも、自分の母ならああ言いそうだと思った。

だから、決めた。