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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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26

暗くなってきた空に、意外と帰るのが遅くなってしまったなと思いながら、空流がマンションのオートロックを開けようとしたとき、見覚えのある車が道路に止まった。
その車から誠司が降り、中の喜多川と多少言葉を交わして車が走り去る。
「誠司さん」
こちらへ向かってくる彼へ向かって、手を振った。
「空流、おかえりなさい」
「誠司さんも」
「今、帰ったところですか?」
「はい」
一緒にマンションに入って、オートロックを開けようとしたが、入る前に誠司が空流の手をつかんだ。
「どうしたんですか?」
「せっかくだから、たまには一緒に外食をしましょう。この近くにもいい店はたくさんありますし、あなたに話したいこともあります」
「あ、僕も誠司さんの話したいことあるんです」

一度入りかけたマンションから一緒に出て、近くのレストランに入った。
通された席は個室で、照明が暗く、慣れない雰囲気に空流は少しどきどきする。

「まずは、食事から済ませましょうか」
メニューを手にとって、食べたいものを探そうと思ったけれど・・・メニューの意味が不明だった。
筆記体の英語で書かれているのは読めないし、その隣にある日本語もカタカナばかりでよくわからない。
どうやらスパゲッティとピザがあるらしいからイタリアンのお店だということはかろうじてわかった。
「このコースはどうですか?」
誠司が問いかけてくるから、それに任せることにする。嫌いなものも特にない。
最初にパン、それからスープにサラダ。ピザとパスタと肉料理が出されて最後にデザート。

「フルコースってこういうのなんですね・・・」
その豪華さに舌鼓を打ちながら、空流が感嘆した。
「本場のフルコースなら、ピザは含まれませんけどね」
その言葉を聞いて、これ以上に高級なイタリアンがあるのか、と苦笑いせざるを得ない。
身近なイタリアンといえば、緑の看板で安さを売りにしているファミレスだからなあ・・・と場違いなことを思う空流である。

食後のドリンクをオーダーして、やっと話を始めるに至る。
結局空流から話をすることになって、今日あったことを誠司に話した。
一日で千葉の奥まで行ったことには、かなり驚かれ、もし源一郎が通りかからず車に拾ってもらえなかったらどうするつもりだったのかとちょっとだけ怒られた。
けれど、それも心配してもらっていることがわかるから、悪い気はしない。
空流の話が終わると、今度は誠司が切り出した。
「次は、私の話を聞いてください」
誠司も今日、黒川の実家まで行ってきたことを空流に話した。
こちらも、午後から静岡まで往復して帰ってきたのかと相当に空流を驚かせる。
伯母が語っていた後悔も、希望も、余すところなく語った。
もちろん、空流にあいたがっていたということも。

「会いに、行きたいです」
誠司が話し終わった後、空流が一番にそう言った。
「そう言ってくれてよかった」
誠司も安心したように微笑んだ。
「あの人は、とても大きな後悔を抱えて生きていました。それが少しでも軽くなるといいんですが・・・」
「僕にできることがあるんでしょうか」
「あなたに会うだけで、伯母の心は救われると思いますよ」
そんな期待に答えられるかな、と不安に思う心が半分。そうだったら嬉しいなと思う心が半分。

「大地さんのお母さんが、僕のお母さんのことを認めてくれたのはすごく嬉しいです。しかも、一緒にいさせて欲しいとまで言ってくれて・・・」
「そのことは、少し考えなければいけませんね。両家ともあなたの意思のままにと言ってくれてるんですけら」
「でも、納骨とかにって・・・どんなルールがあるかとか、全然わからないんですけど・・・」
「そのあたりのことは、大人たちに任せてもらえればいいですよ」

どうしたいかを任せる、といわれても、正直なところ困った。
本人たちの意思に従うのが良いとは思うけれど、その本人たちはもういない。
だから、二人がどうしてほしいと言うかを想像してみた。
母はともかく、父についてはかなり少ない情報しか持っていないから、それも困難だったけれど。

家を捨ててまで一緒になった二人を、このまま別々にしておきたくはない。けれど、どちらかを故郷の土から離して、どちらかの家に入れるというのは違う気がする・・・。
二人は、家のことは関係なく一緒にいたのだから。

結局、もう少し考えますとだけ言った。