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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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最終話


空流と誠司は、伊豆にある鷹島の別邸へ来ていた。
まだ残暑が厳しく、長袖で出歩くのはきつい。
しかし黒い服に身を包んだ二人は、邸を出て庭へ向かう。
庭とは名ばかりの、自然の景観を損なわぬように森に作られた遊歩道。

空流は、そこを歩きながら夏の初めの出来事を思い出す。
はじめにここに来たのは、まだ車椅子に乗っていて、声もでないときだった。
不安がいっぱいだった心は、つかの間だったが広がる自然の美しさに癒された。

今はもう、心に不安はない。
手には、二つの小さな壷。
隣を歩く人の手には、花束。

しばらく進むと、散歩コースの折り返し地点に着いた。

太陽の光を受けて、キラキラと輝く沖合いの海が一望できる場所。
空は青く澄みわたっている。
二人が立っているのは、木々に囲まれた崖の上。

壷に収められていたものを手に取る。
両手いっぱいに収めて、手を伸ばしてめいっぱい海へ近づけると、砂のようなそれは、さらさらと風に流され、海へ吸い込まれていった。

花束を受け取り、色々な花から少しずつ両手いっぱいになるまで花びらをとった。
海へ両手を掲げると再び風が花びらを海へ吸い込ませていく。

最後の一枚が空流の手から消えたところで、目を閉じて手を合わせた。
そうすることしばらく。

目をあけると、穏やかな波間に花びらが散っていく。
それが見えなくなるまでは、ここにいようと思った。

そこに腰を下ろすと、誠司も隣に座った。

「寺山のおじいちゃんも、黒川のおばあちゃんも、こうすることを許してくれてよかった」

空流が決心を決めた後、二つの家へお願いに行った。
二人が愛した自然の中で一緒にいさせてあげたいから遺骨を分けてください、と。
そうして、墓参りを済ませた後、小さな骨壷にそれぞれの骨を分けてもらっていた。

「それに、奇跡みたいな話も加川さんから聞けました」


今から、十数年前。
加川がこの別荘の管理人として東京から下がったばかりのころ。
屋敷近くに車が停まったような気がして、門の外へ出ると、見覚えのない東京ナンバーの車が、私道に停まっていた。
どうしたのかと思って、その車の近くをうろうろしていると、ふいに人の姿が目に入った。
『加川さん?』
人影が呼びかけてくるが、逆光で顔がわからない。その顔がはっきり見えたのは、距離を半分以上詰められたときだった。
『大地さま・・・!』
加川は自分のみたものが、信じられなかった。鷹島の跡取りと目されていながら数年前に姿を消してしまった人がそこにいたのだから。
『勝手に入ってすみません。でも、僕は昔からここが好きなんです』
大地は生家も静岡だけれど、近くに海はない。だから小さい頃海に遊びに来るときには、必ずここの別邸を使わせてもらっていた。
『ここからの景色を、僕の家族にも見せてあげたかった。立派な不法侵入ですけどね』
『それは、構いませんよ』
『ありがとうございます。もう一つお願いをきいてください。黒川や鷹島の人たちには、僕がここに来たことは秘密にしておいてください。もちろん誠司にも』
加川と誠司の関係は、当然大地も知るところであるから、釘を刺すのを忘れなかった。
『誠司は、元気ですか?』
『誠司さまは、大人になったらここに住みたいと申されるくらい、ここがお気に入りの様子ですよ』
『そうですか。それは嬉しいですね』
その人は、本当に嬉しそうに微笑んだ。鷹島で働いているときの何倍もその顔は幸せに満ちていた。
『また、お好きなときにいらしてください』
『ありがとう。また来させてもらいます』
その約束は、叶うことはなかったけれど。



「夏の初め、私がここへ向かう途中にあなたを見つけたのは、運命だったんですね」

キラキラ輝く海と、澄みわたる空と、木々に囲まれた大地。

風が木々をさわさわと揺らし、波の音は絶え間なく鳴り響く。

花びらは少しづつ、見えなくなっていった。

最後の一枚が波に飲まれたのを見届けて、空流がたちあがる。
「もういいんですか?」
「はい。花びらがみえなくなったら見送るのをやめるって決めてましたから」
そうしないと、いつまでも見送っていたくて、きりがなくなってしまう。

花束をそこに置いて、海に背を向けた。
やっと、ちゃんと別れることができた。
自然へ還った両親は、どこからでも自分を見守ってくれている。

これからは自信をもって、自分の道を進もう。
まずは、普通の高校生として未来へ歩き出そう。


「散歩をしながら帰りましょうか」

差し出された手に向かって、自分の手を伸ばした。

目の前には、生い茂る木々と高い高い青空。
それから、何よりも愛しい人。

手を繋いで、ゆっくりと歩き始めた。


ひと夏、本当にいろいろなことがあった。
嬉しいこともいっぱいあったけれど、苦しいことも多かった。
東京に帰って日常に戻れば、そんなことはもっともっといっぱいあるんだろうと思う。
嬉しいことも。
楽しいことも。
苦しいことも。
悲しいことも。

それでも、この人とこうやって手を繋いで歩けば、きっとこの澄みわたる空のような未来が待ってる。



君ト描ク青空ナ未来 FIN







長い間、おつきあいありがとうございました。

次のページにあとがき的なもの。
その次にはおまけの小話があります。