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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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14

「加川?」
昔の本がどこにあるかを加川に聞こうと思ってキッチンへ。
加川の様子が少し変だった。
「どうした?」
「いえ、すみません、私の注意が足りなかったせいであの子につらい思いをさせてしまったのかと思うと・・・」
食事を出す量が多すぎたと思ってるのだろう。
「お前のせいじゃない」
「・・・はい」
納得していない返事。
それでも、こればかりは私が何か言ったところで仕方が無い。

「ところで、いくつか頼みたい事がある」
「はい」
「私が昔読んでた本でここにおきっぱなしだったものがあっただろう?それはどこに?」
「おそらく地下の倉庫の中かと思いますが」
「ちょっと探しに行ってくる」

地下倉庫へ入って、電気をつける。
よく手入れがなされているのか、埃はあまり目立たなかった。
中は良く整理されていて、欲しいものもすぐに見つかる。
少し古いけれど、当時ベストセラーになった本を何冊か持った。
それから意外な掘り出し物も見つかった。
車椅子。
これは使える。
畳んであるのを広げてみた。
そういえば、小さい頃、足を怪我した時に車椅子に乗った記憶がある。
そのときのものかもしれない。
これも古いけれど使えないことはないだろう。

もう使えないようなら新しいのを買っても良い。

「誠司さま?見つかりましたか?」
「ああ、それに良い掘り出し物も見つかった」
「車椅子、ですか?昔、誠司さまが怪我をされた時のものですね」
「ああ。そうだったかもしれない。使えるだろう?」
「しかし古いですからね。それは私が拭いておきますので誠司さまは本を空流さまに持って行ってあげてはいかがですか?」
「ああ、そうしよう」
地下倉庫を出て、階段を上がる。
自分の部屋のドアを開けると、空流はもうベッドの隅で丸くなって寝てた。
まだ8時半を過ぎたところなのに。
それでも仕方ない、夕飯の時間にあんなことがあって疲れないわけが無い。

本をベッド脇のテーブルに置いて、電気を消した。
空流に布団をかけてやるのも忘れずに。

もう一度部屋を出て、加川のところへ。
さっき倉庫から引っ張り出した車椅子は見違えるようになっていた。
「結構綺麗になるものですよ」
新品同様、とまではいかないものの、十年以上前のものであるということなどわからないくらいに、綺麗になっていた。
「これでご自分で出歩けるようになりますね」
「ああ、足や体の怪我はじきに治るし、問題ないだろう」
「それよりも、声ですね。声帯が傷ついてるのか、それとも心因性のものか・・・。」
「自分で声が出ないことがわかってないんだ。心因性だろう。それに、自分で自分の声は聞こえているらしい」
「そうですか、それでは心因性のものに間違いないでしょうね・・・」
「心療内科の医師を探さなければいけませんね」
医者か・・・。
まあ、医者ならいいツテがある。
「俊弥に相談してみよう」
「そうですね。それが良いと思います」
俊弥の家の事業は、病院経営。
しかも大きな大学病院だから、心療内科もあったはず。

車椅子を自分の部屋の前に置いて、書斎へ。
書斎の電話から、暗記している携帯の電話番号を押す。
昼間と変わらず、電話の相手はすぐに出た。
『もしもし?また誠司かよ』
「ああ、何度もすまん」
『ま、いいけど、なんだよ。また予行練習は勘弁だぞ?』
「そんなじゃないよ、頼みがある」
『なんだよ、改まって。お前の頼みなら大抵きいてやるけどさ』
「いい心療内科の医師を紹介して欲しい」
『は?なんでまた・・・』
その問いかけに、また少し事情を付け加えて説明した。
『確かに、心因性だろうな。それでも耳鼻咽喉科で一応検査はしないとな。んで、うちの病院まで来てくれるのか?』
「それはできれば遠慮したいな。ここまで来てくれるとありがたい。電車なら駅までは車で迎えをやる。もちろん交通費は出すし、移動時間に見合う金も払おう。それでどうだ?」
『わかった、親父にも相談してみる。もしかしたら俺が行くかも』
「お前が?」
『いい心療内科医、って別に俺もアウトじゃないだろ?一応この病院の若頭なんだぜ?』
「外科じゃなかったのか・・・」
『まあ外科もいけるけど。今は心療内科の専門』
「わかった、お前でもいいよ、むしろ若頭が自らきてくれるほうが俺もありがたいな」
『何か決まったら連絡する。別に急いでないだろ?』
「ああ、でも出来れば早めに」
『わかってる、明日連絡する。今日はもう先生方帰ってるしな』
「ありがとう、無理言ってすまない」
『いいよ、俺もそっちにゃ世話になってるし。んじゃ、また明日な』
「ああ、また明日」

あとは連絡を待ってればいいだけ。
自分が寝る時間まではまだしばらくある。

これから必要そうなものの発注でも済ませておくか。
まず衣類と、生活用品。
空流に合いそうなものを何枚か適当に選ぶ。
喜んでもらえるといい・・・。
そんな期待が胸をよぎるのを無視できずに、手を動かし続けた。