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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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13

昼間、誠司さんが部屋を出て行った後もしばらく眠り続けた。
目が覚めたときもまだ外は明るくて、時計が近くに無かったから何時なのかはわからなかった。

混乱してて、何がなんだかさっぱりわからなかった。
あの人が、鷹島誠司と名乗った人が本当にその人なのかも分からなかった。

だって、あの家から抜け出して、道で倒れてて、助けてくれたのは若社長でしたなんて、そんな都合の良い話があるわけが無い。
もしかしたら、一ノ宮の人間が一芝居うってるのかもしれない。

それでも、こんなことをする意味がわからないけれど。

一ノ宮の人たちに簡単に話しを通せるなんて、そう考えでもしないと納得できなかった。
用心するに越したことはない、そう思ってるときに部屋がノックされた。

誠司さんが入ってきて、夕飯の支度ができたことを告げた。
抱き上げられて、食堂まで連れて行かれる。
その移動の仕方は恥ずかしかったけれど、歩ける状態ではなかったし仕方ない。

少し回りを見てみると、拾い廊下に立派な調度品。
本当に立派な建物だってことがわかった。
静岡の伊豆と言っていたけど、本当にそこなのかもわからない。

こんなことを考えて、誠司さんを疑った事を反省するのは本当にすぐ後。

行儀良くしなきゃ、一ノ宮に全部報告されるのかもしれないと思うと、油断なんて全然出来なかった。
出されたものは全部食べないといけない、そう思って、満腹になっても箸を動かし続けた。
限界を通り越して、気持ち悪くなってきても、まだ続けて・・・。

箸を取り上げられた。
その後には、嘔吐。

洗面所の前に椅子を置いてくれて、気が済むまで口をゆすいだ。

その後には、激しい自己嫌悪。

本末転倒。行儀良く振舞おうとしたのに、結局逆の事をしてしまった。

その後で誠司さんの部屋へ。
ダボダボだったけれど、服を貸してくれてベッドへと座らせられた。
誠司さんも隣に座る。
申し訳なくて、顔を上げられなかった。

出てって欲しい、とそういわれることも覚悟してた。
それでも、かけられた言葉は真逆の言葉。
本当に涙が出そうなくらい優しい言葉をくれた後に、抱きしめてくれた。
人のぬくもりなんて本当に久しぶりだった。
この人の言うことなら、なんでも聞ける。
そんな気にさせるくらいに、誠司さんの腕は優しくて、暖かかった。

極めつけは、母さんを褒めてくれた事。
残さずに食べようとしたって事から母さんはとても良い教育をした、と。
そう言ってくれた。

すごく、嬉しかった。
小さい頃からずっと母子家庭で、父親がいないことでイジメにあったりして母さんのことを良く言ってくれる人なんて周りにいなかった。

すごく良い母さんだったんだ。
そのことを、誠司さんだけがわかってくれている気がした。

一ノ宮の人間だったら絶対にそんなことは言わない。
この人は、一ノ宮の人じゃないんだ・・・本当に鷹島誠司っていう人なんだ・・・。
疑ってごめんなさい・・・。

母さんが死んで、もう3ヶ月か。
なんだか、やっと現実にそのことを受け入れられた気がした。

『ただいま、空流』
そういって、母さんがあのボロアパートのドアを開けて帰ってくることは二度とないんだ。
やっと、それがわかった気がする。

寂しいですか、という問には首を振った。
もう慣れました、と唇を動かす。

その後に言ってくれた冗談も、あながち冗談じゃなくなりそうな気がしたけれども落ち着く気持ちになるには充分だった。

「何かあったらすぐに呼べるように、今夜はここで休んでください。ダブルサイズなので広さは充分だと思いますが、もし嫌でしたら私はソファで休みます」
その申し出に慌てて首を振った。
「私が一緒でもかまいませんか?」
もちろん首を縦に動かす。
「良かった。でもまだ休むには早いですね。何か暇がつぶせそうなものを持ってきます。といっても、あまり空流の年頃の子が喜びそうなものはないのですが・・・。本は読みますか?」
頷いた。
生まれてからずっと貧しい生活で、パソコンやゲーム機器がうちにあったことなんか一度もない。
暇つぶしはいつも図書館から借りてくる本だった。
「良かった、昔私が読んでいたものがまだあると思うので、探してきます」
誠司さんが部屋を出た。
広い部屋に一人残される。

立派な家具に、パソコンにオーディオ機器。
住む世界が違う人だ。けど、こういう生活をしてる人は想像してたよりもずっと上品で、暖かくて、優しい人だった。