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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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25

誠司は土曜日の朝、仕事に行くといって家を出た。
午前中に片付けなければいけない仕事があったのは本当。

けれども、午後には別の予定を入れていた。

東京から静岡まで移動して、ししおどしの音と、水のせせらぎがする庭を眺める。

「お久しぶりです。伯母様」
「久しぶりね、誠司くん」

目の前の和装の女性はすでに喜寿を迎えていた。
長年連れ添った夫は数年前に他界。そのときの葬儀には誠司も出席したが、そのとき以来の再会であった。

「誠司くんが訪ねてくるなんて、本当に久しぶり」
目の前に座る上品な女性は、誠司の記憶よりも随分小さくなった気がする。
簡単な挨拶を済ませた後、本題を切り出した。
「実は、大地さんのことで伺いたいことがありまして」
その名前を出した瞬間に、伯母の顔が曇る。
息子を2度失った悲しみはまだ癒えきっていないのだろう。
一度目は、彼がこの家を出て行ったとき。
二度目は、彼が事故にあったとき。
しかも、この人は大地が事故にあって亡くなったと聴いた瞬間に倒れてしまって大地とちゃんと別れることもできなかったと聞いている。
「大地・・・。どうして私だけでもあの子の結婚に賛成してやらなかったのかしら・・・」
大地と仲が良かった誠司を前にしてでてくるのは、悔恨。
鷹島に就職しようとしたときも、もっと強く反対をすればよかった。
大地の意志を無視した婚約者なんて、気にしなくていいと言ってあげればよかった。
出てくる言葉は、もはや叶わぬものばかり。
「誠司くん、大地の奥さんは元気にしているのかしら?私がその人に会いたいと思うのは、許されないことかしら?」
きっと奥さんは黒川や鷹島にいい思いを持っていないから難しいでしょうけど、と語る。
「伯母様、大地さんの奥さんは今年の4月に亡くなりました。なんの因果か、大地さんと同じ死因です」
事実を告げると、伯母の目から滴があふれ出す。
「ごめんなさい・・・。でも、大地と彼女の不幸を思うと・・・。奥さんが亡くなったなんて知らなかったものだから、葬儀にも行けなかったわ・・・」
ハンカチで涙を拭い終わるのを待った。
「伯母様はご存じないかもしれませんが、彼らには子どもがいます」
目が驚きに見開かれる。
「その子は、なんていう子なの?」
「名前は、空流といいます」
「そう。両親をなくして、大変でしょう。今はどうしているの?」
それを聞かれて、誠司が空流と一緒に暮らすきっかけとなったことを話す。
加えて、いまはもう亡きこの人の夫が、父親を失った家族に何をしたかも話した。

あまりの話に、伯母の目から再び涙が零れ落ちた。
「そんな風に大地の遺骨を取り上げてたなんて・・・!私はそれも知らなかった・・・」
「伯母様が知らなかったのも無理はありません」
「誠司くん、大地の奥さんは七海さんという名前だったのね。彼女はご実家にいらっしゃるのかしら?」
「おそらくそうでしょう。彼女の実家には今空流が連絡を取ろうとしていると思います」
「そう・・・。空流くんと七海さんさえ許してくれれば、私は大地とあの子が愛した人を同じお墓に入れてあげたい・・・。そう思うのは私のわがままかしら?」
「私には、よくわかりません。空流がどうしたいと言うか、それが一番です」
「そうよね。空流くんの意志が一番よね。私は空流くんに会うことはできないかしら?私たちは彼にとんでもないことをしてしまったけれど、それでも私の孫ですもの」
「それも私にはわかりません。帰ったら空流に聞いてみましょう」
「お願いよ、誠司くん」
必死な様子の伯母の思いにできるだけ答えたいと思いながら、黒川邸を後にした。