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律姫 -ritsuki-
律姫 -ritsuki-
novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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24

「あの、突然尋ねてきたりして・・・ごめんなさい」
葬儀のときに言葉をかけてくれたであろう人たちに頭を下げた。
「ここは突然の客だろうが気にしない土地柄だから、そんなことは気にしなくてもいいよ。よく来たね」
おじいさんが畳にあがって、空流に微笑みかけた。
「真由美と一ノ宮のみなさんは元気かな?」
真由美というのは一ノ宮にいる伯母のこと。
「すみません、今は一ノ宮にはいないので・・・」
「そうなのか。あれから、どうしたんだい?」
この穏やかな人の前で娘さんである伯母のことを悪く言うのは躊躇われた。
一ノ宮では上手く行かないことが多くて、今は黒川の親戚の家にいますと答えた。
寺山の家の二人は、黙って空流の話を聞いてくれた。
「上手くいかなかったのは、真由美のせいだね?」
それを言う人の瞳に後悔の思いがにじむ。
「真由美姉ちゃん、七海姉ちゃんのこと嫌いだったしな・・・」
「反対する真由美を押し切って、君をひきとらせたのは私なんだ。見ての通り、ここには近くに学校すらないし、君を育てられるほどの財力もない。あの家からなら君の通う高校にも通学できるし、不自由ない暮らしができると思ったんだが・・・すまないことをしたようだね」
その言葉に恐縮した後、源一郎が自分の姉たちについて話してくれた。
しっかりもので、何でも要領がよかったのは姉の真由美。
けれど、どこか奔放な空気をまとっていた妹の七海のほうがよく人から好かれていた。
何も出来ないくせに守られてばかりの七海が許せないと常々、その姉は言っていたらしい。

「それで、ここへ来たのは私になにか言いたいことがあったからだろう?」
冷茶のおかわりをいただいて、おじいさんがに問われた。
「はい。葬儀のときには、まともに返事も出来ずにすみませんでした。ここに来たのは、母にちゃんと挨拶をしたいと思ったからです」
空流が言うと、おじいさんは腰を上げた。
「ついておいで」
歩きだすその人の後についていくと、仏壇のための狭い和室に着いた。
「葬儀のときには、君に何をいっても聞こえていないみたいだったから」
「いろいろ、ありがとうございます」
「礼はいらんよ。普通の高校生が突然親をなくして何もできるはずはないんだから。ただ、話し合うことは必要だけれどね。きてくれて良かった。私も元気な君に会えたことが嬉しいよ」
微笑むその顔は、母の笑顔を思い起こさせた。
「僕も、嬉しいです。えっと・・・おじいちゃん」
ちょっと照れくさかったけれど、そう呼ばせてもらった。
「ありがとう。さあ、とりあえず仏壇に挨拶をしたら、さっきの部屋へ戻っておいで」
一人で部屋に残された。
目の前にある仏壇には、生前の母の写真が飾られていた。
「母さん、久しぶり」
やっと、生前の母親を冷静に思い出すことができるようになっていた。
リンを鳴らし、手を合わせてこれまでのことを報告する。
しばらくそうしていると、リンが再び鳴った気がした。
あわてて目を開けるけれども、誰もいない。
母さんが返事をしてくれたのかもしれないと思って、もう一度手を合わせた。

さっきの部屋へ戻ると、おじいさんの姿だけ。
「さて、ここからはこれからの話をするんだが・・・七海の骨はうちの墓にあるままでいいのかね?」
そう聞かれても、どうすればいいのかはよくわからない。
でも、家を捨てるほどに愛してくれた人がいるなら、その人と一緒にいさせてあげたいと思う気持ちはある。
それが目の前の人にとって良いことなのか、悪いことなのかはわからなかったけど、思ったことを正直に言った。
「それがいいのだろうね・・・。しかし、私は君のお父さんの家のことをよく知らないんだ」
七海の葬儀にも顔を見せなかったその人たち。
結婚するときにも、式もせず報告に来ただけで、二人で東京へ移り住んでしまった。
七海としては、実家が黒川や鷹島から圧力を受けないために、距離を置いていたのだけれど。
「僕も、黒川の家がどんな家かとかはわからないんですけど・・・お母さんとお父さんが一緒にいられるように頼んでみます」
「そうか。こんな片田舎に住んでいる老人ができることは何もないから空流に任せることにしよう。けれど、私の力が必要なときはいつでも頼っておいで」
優しく微笑んでくれる祖父に、なんとなく照れくささを感じながら、礼を言った。
助けてくれる人はいっぱいいる。

「おーい、空流。昼飯たべてないだろ?食べろー」
源一郎さんが部屋の外から呼んでいた。
「あ、ありがとうございます」
ダイニングに通されて、そうめんをご馳走になった。
祖父と叔父と一緒に食事をとっている。
彼らと一緒に食事をするのは何だか嬉しかった。

それからすぐ、黒川のほうの事情がわかったらまた連絡をするといって、おいとました。
帰りはまた車で駅まで送ってもらう。
「来るときは電話してくれれば、迎えに来るからな」
きっと、その言葉に甘えることになるだろう。
1時間に1本しかない電車に乗り逃さないそうに、早々に駅で別れた。

家を一目みるだけのつもりが、すっかり家に上がりこんでしまったけれど・・・。

来てよかった。