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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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23

次の日は土曜日。
誠司はいつもどおり仕事へ行ってしまい、朝早くから家の中には空流一人。
手には昨日のメモ。

一日何の予定もないし、外はいい天気。

少し前までは休日も勉強に忙殺されていたけれど、最近はなれてきたせいか、休日を2日間を両方とも勉強に充てる必要はなかった。

暇だと、やらなければいけないことばかりが頭に浮かぶ。
手元のメモと電話を交互にみやるが、いきなり電話番号を押してみる勇気はなかった。

電話する前に、どういうところなのか見ておきたい・・・。

リビングの本棚に納められているドライビングマップを持ち出して、昨日教えてもらった場所を思い出す。
聞き覚えのない路線の駅が最寄り駅。
電車で3〜4時間ということは・・・今家を出ればお昼ごろには到着する。
どんな家なのかを一目みて帰ってくるだけなら、夕方には帰ってこられるはずだった。

気がついたら、本屋で千葉県の地図を買って駅へ向かっていた。
普段はこんなことがすぐにできるほど、行動力なんてないはずなのに。

路線図をみて、どうやって行くのかを調べる。
電車賃は大きな痛手となるけれども、今はそれを考える場合ではない気がした。

通勤ラッシュとは逆の電車に乗って、数回の乗換え。
千葉県に入って、最後の乗り換えを済ませたところでやっと落ち着く。
メモした住所と買ったばかりの千葉県の地図を見比べて、しるしをつけた。
はっきりした場所はわからなくとも、この辺を歩き回れば寺山という表札をみつけることくらいはできるだろう。

最後の電車に乗ってから、1時間半ほどが経って、目的の駅に到着した。
電車を降りたのは一人だけ。コンクリートが台になっているだけの、屋根もない駅。
緑がさわさわとゆれる音にかすかに蝉のなく音。
電車が走り去った後はそれだけしか音がしなかった。

なんだか、懐かしい。
そう思うけれども、当然来たことがある場所ではない。

駅を出ようとしても改札機もないし、誰もいない。
切符を入れる箱だけがあった。

地図をみながら、自分が行くべき方向を決める。
電車の中で調べた結果によると、ここから目的の家までは直線距離で5キロほど。
残暑厳しい9月の空の下だけれど、歩くしかなかった。

目印になるものもろくになく、田んぼと畑が続き、思い出したように民家がある程度の道。
東京からほとんど出たことのない空流にとっては新鮮なもの。

途中からは山道に入り、地図でみた距離よりもずっと長く歩いている気がしてきた。
山道を登り続けて、きつくなってきたところに丁度小さな神社の石段があったから、そこで休ませてもらうことにする。
にじみ出てくる汗をTシャツのすそで拭うけれどもとても追いつかない。

「同じ5キロくらいでも、東京とは大違いだなあ・・・」
苦笑交じりに独り言。
自然の中を歩くのは楽しいけれど、人通りがほとんどない道。
自分の進んでいる道があっているのかどうかすら怪しく思えてきた。
今休んでいる石段の上の神社もきっと無人に違いない。

ついため息がでそうになったところで、車の音が聞こえた。
白い軽トラックが空流の目の前を通り過ぎていく。
ちゃんと人が住んでるんだなあ、と思いながら車を見送ったけれど、その車は空流の先で止まった。
中から出てきたのは、中年の男性だった。肌はよく日に焼けていて、頭にタオルを巻いている。
「こんな山の中で、どうした?迷子か?」
どうやら空流の姿を見止めて止まってくれたらしい。
「いえ、向かうところがこの先なんです」
「っていっても、こんなとこの先に何もないだろ?」
「えっと・・・でも地図によると家があるはずなんですけど・・・」
その男に地図を見せると、大げさに驚かれた。
「こんなとこまで駅から歩いていくつもりだったのかい。この集落はこの山越えた向こう側だよ」
まだ、山を登っている途中の空流には、その言葉は結構な打撃だった。
「お兄ちゃん、のりなよ。今から俺もそのあたりまで帰るところだから、ついでに送っていっちゃる」
その親切な申し出を、ありがたく受けることにした。

車だとあっという間に山を越えて、集落が見えてくる。
「お兄ちゃん、誰の家に向かってるんだい?」
「あ、あの、寺山さんっていうお家をご存知ですか?」
「寺山?ああ、知ってるけど」
「そこのおじいさんに用事があるんです」
「そうかい。んじゃ、寺山の家まで一緒に行くか」
男の申し出はありがたかったけれど、寺山の家の中まで尋ねる予定はない。
どんなところか一目みておきたかっただけなのだ。
「いえ、あの、近くでおろしてもらえれば」
「いいって、いいって。ついでだからな」
断る言葉は単純に空流の遠慮だと思われたのか、車はどんどん進んでいった。

集落と言っても数件の家がぽつぽつと田畑の合間に建っているだけの場所。
「寺山の家はあれだよ」
指差されたのは、その集落で唯一の平屋。
車はあっという間にその駐車場に収まった。
礼を言って車から降りると、玄関はこっちだと誘導される。
家を訪ねるつもりはないと言ってしまえば、ここまで送ってもらった好意が無駄になるような気がして何もいえなかった。
その男性は、勝手にドアをあけ、家の中へと進んでいく。
「あの・・」
「じいさんに用事なんだろ?ほら入って入って」
強引に、畳の客間に通された。
その部屋の障子を開けられると、縁側の向こうに畑が一面に広がっているのが見える。
その畑へ向かって、男性が声を張り上げた。
「おーい、父さん、お客さんだよー!」
「え、父さんって・・?」
「ここのじいさんの息子だって言わんかったか?悪い悪い。驚かせたな」
やけに、慣れた風に家の中に入っていくと思った。
「今、茶入れてくるから」
「あ、おかまいなく」
とは言ったものの、喉が渇いていたせいで、出された冷茶をすぐに飲み干してしまった。
「どっから来たんだ?こんな田舎で車もなしにどっか行こうなんざ無茶な話だ。んでも、お兄ちゃん、どっかで見たことあるような・・・?でもこんな年の知り合いなんていないはずだしなあ・・・」
家にまであがるつもりはなかったのに、すっかりこの人のペースに巻き込まれてしまった。
「俺は寺山源一郎。お兄ちゃんはなんていうんだ?」
聞かれたところで、丁度おじいさんが縁側へ来て、農業用の帽子を置き、顔を上げた。
「空流か・・!」
「えっ、空流って七海姉ちゃんの!?」
寺山家の二人が驚きの声を上げた。