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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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君ト描ク青空ナ未来 --完結--

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22

夜に半そでで出歩くには少し肌寒くなってきたころ。
長袖の服を出そうとして、クローゼットを開けると、プラスチックケースが目に留まった。
母の遺品を入れたもの。

これを見るたびに、チクリと心が痛む・・・。

クローゼットからケースを出した。
開けてみると、身近に見ていた品がいろいろ出てくる。

見たことのないブランドものの服やアクセサリーはきっと大地さんから贈られたものなのだろう。

4月のことを思い返してみると、葬儀には親戚の人が何人かきていた。
一ノ宮にいる伯母もそうだし、そのほかにも何人かいて、年配の男性が話しかけてきたような・・・。

『七海の遺骨は、実家の私たちの墓に入れるけれどもいいかね?』
そんな問いかけがなされたような気がするが、頷いたのか頷かなかったのかよく覚えていない。
そんなことを言われても、そのときは何も考えることができなかった。
そして、そのまま一ノ宮へ連れて行かれた。

男性の言葉からすると、母の遺骨はその人のところにあるのだろう。
それなら、たぶんあの人は、自分の祖父に当たる人。
自分は祖父の顔も知らなければ、自分の母の実家がどこにあるのかすら知らない。
改めて、いままで何もしてこなかったことに愕然とする。
祖父も親戚の人たちも、母親が死んだというのに何一つできない息子のことを親不孝者だと思ったかもしれない。

それを思って落ち込みそうになる心を叱咤して、首を振った。
「落ち込む前に、できることがある・・・」
まずは、いろんなことをちゃんと認めるところから。

両親のことについて、今は何もできていない。お墓参りにさえ、行っていない。
そのことで、酷い息子だと思われているかもしれない。
でも、ちゃんと挨拶はしに行かないと。

そして、親戚の人に会って両親ときちんと別れられれば、やっと過去を過去に出来る気がする。

思い起こすのは、まだ過去と呼ぶには、そんなに昔ではない出来事の数々。
けれど、体についた傷跡は癒え、死にかけた心は戻ってきた。
自分が歩むはずだった道は外れたけれども、少しの迂回をして同じような道へ戻ることができた。
そして、空流にはもう、母が二度と戻ってこないことがわかっている。
けれども、いなくなった日のことを忘れることは出来ないし、これからも思い出すたびに哀しく思うだろう。
それに、悪い印象をもたれているだろう自分の親戚のことを思うと、心が痛む。
でも、いつまでも、このことにとらわれていてはいけない。
新しい道を、自分は歩まなければいけないから。

過去を、過去にしなければ。

きちんと母を弔いたい。
そして、顔を覚えていない父親にも、感謝を伝えたい。
親戚の人にも、挨拶をしなければ。

それが終れば今度こそ、何の心配もすることのない普通の高校生になれる気がした。
世間に対しても。誠司に対しても。

まず、それには、母の実家を調べるところから。
それには多分、一ノ宮に行くことが必要だ。
伯母に会うのはまだ怖いけれど。

「空流?」
部屋のドアがノックされて誠司が入ってきた。
「あ、おかえりなさい。気付かなくってごめんなさい。早かったんですね」
まだ外は完全に暗くなってはいないのに、珍しい。
「ええ。それは・・・?」
部屋の中に散らかった母の遺品。
「あ、えっと・・・両親のお墓参りにいきたいなって思って・・・。でも僕、自分の母の実家がどこにあるかもわからなくって・・・」
葬儀の日に言われたことを誠司に伝える。
「それなら、一ノ宮の樹くんか匠さんに聞いてみたらどうですか?」
「あ、そっか」
そういえば、知っているあの人たちも一ノ宮の人だった。
「樹くんの連絡先なら敦也くんが知ってるでしょう」
そして敦也の連絡先は空流も知っていた。

敦也に電話をすると、丁度樹が隣にいたよう。
そのまま電話を変わってくれた。
「うちの母親の実家?農家らしいけど・・・行ったことはない。帰って家の中探せば住所と電話番号くらいわかるから。わかったら連絡する」
電話を置いて、夕飯を作りながら連絡を待っていると、食べ終わる頃に電話がかかってきた。
簡単に調べることができたようで、祖父の名前と住所と電話番号が伝えられる。
「ありがとうございました」
「別に、これくらい何でもないけど」
相変わらずぶっきらぼうな物言いだったけれど、こうして普通に話せることが嬉しかった。

メモした住所をみると、千葉県の知らない土地。
「大分、千葉の奥のほうですね。ここからだと車でも電車でも3〜4時間くらいでしょうか」
メモを覗き込みながら誠司が言う。
「ここ、知ってるんですか?」
「ええ、有名な海水浴場の傍ですよ」
といわれても空流はその海水浴場すら知らなかった。
その住所を手にしても、連絡をするのはためらわれた。
祖父とはいっても、空流は一回しか会ったことがないし、そのときの記憶も虚ろだ。
「私が、連絡しましょうか?」
空流の心情を読んだような誠司の申し出は、ありがたかったけれど首を振った。
「いえ、自分でやります」
「それがいいでしょうね。黒川のほうは私が調べておきます。あなたにとってはあまり良い場所ではないかもしれませんが」
「いえ、お願いします。お父さん・・って呼ぶよりも大地さんって呼ぶほうが落ち着くんですけど・・・大地さんのお墓参りにもちゃんと行きたいですから」

今日はもう夜になっているから、連絡の方法を考えるのは明日にして同じベッドへ入った。